ドルインデックスが中段保ち合いの様子を示しているなか、ドル/円の反落が目立ってきた。今週月曜高値111.45から一貫して下落、安倍総理の消費増税先送り表明と共に円高が早送りされた模様で、クロス円も「総崩れ」となり、ユーロ/円に至っては昨日121.05の安値を記録、2013年4月以来の低い水準に落ち込んだ。

円高トレンドの継続自体が筆者の予想通りで、別に驚きでもなんでもない。それと同じ、、安倍首相の消費増税先送りも当然の結果で、むしろこのタイミングで増税を推進していくのがおかしい。なぜなら、増税自体がアベノミクスが成功している示しとなるから、アベノミクスが明らかに失敗したから、増税をできるはずがない。この辺、サプライズとか、驚きとは言う見方自体がおかしいと言わざるを得ない。景気自体をすこし検証すれば誰でもわかるように、アベノミクス云々が幻想にすぎず、全く効果を上げられなかったからだ。

IMFの計算によると、2016年日本の実質経済成長率が0.5%程度で、危機に苦しんでいるEU圏の3分の1に過ぎない。更に、来年の予想では、日本がマイナス0.1%でG7の中随一マイナスに予想にされたほど、日本景気の見通しが厳しい。マイナス金利を導入されたからこそ、この程度の成績しか残していない安倍政権は、少なくとも経済面において不合格であることは言うまでもない。

もっとも、アベノミクスの本質は金融政策であり、また事実上の財政ファイナンスと化しただけで、もっとも肝心の成長政策が何は実らなかった。金融政策にしても、財政政策にしても、時間稼ぎが目的で、時間稼げの目的は成長を喚起、軌道に乗せることあるが、いつの間に金融政策のみが目的となり、またその一時な効果に戸惑われたのも事実であった。

一時の円安・株高は官製相場の結果に過ぎなかったが、安倍政権はそれを自らの功績と自価自賛、昨年夏以来、同効果が大きく剥落してきたから、今度はリーマンショック前夜とかを言い出して、自らの責任をごまかしているのも見苦しい。消費増税を見送り次第がやむえないとしても、頑として失敗を認めず、アベノミクスが成功していると言い張りながらの公約違反は当然国際では評価されず、国内でも冷たい目線で見つめられ、信頼が失われつつあると言わざるを得ない。

日銀と同様、今回政府も「有言不実行」になったから、市場の評価も厳しいそのもの。円高の再開は理屈上いろいろ解釈されるが、もっともわかりやすい話では、消費増税見送りで日銀金融政策もそろそろ終止符が打たれるのではといった疑心暗鬼がマーケットに共有されたのでは。言い換えれば、増税見送りがアベノミクス失敗の証拠であれば、アベノミクスの核心、または随一の自体部分である金融政策も出口が模索されるのでは、と市場が疑い始めたことだ。

日銀内部でも金融政策の限界を危惧する声が大きくなっている。日銀の佐藤審議委員が2日、「2年で2%実現のコミットメントは再考を要する時期に来ている」、「マイナス金利政策は緩和効果をもたらすどころか、むしろ引き締め的」とインタビューに答え、黒田路線に明白な反対姿勢を表明した。張本人の黒田さんさえ、もっとも増税推進派で、またかねてから量的緩和と財政規律の整合性を主張してきただけに、増税見送りされた今、「やる気」が失われたのではと推測されるほどだ。要するに何のために量的緩和やマイナス金利を推進してきたか、という目的が失われている状況では、所謂規定路線でも走れなくなるリスクが大きいといわざるを得ない。

こういった状況を見透けていたように、円高トレンドが再開され、ドル/円5月いっぱいの上昇幅が帳消しされてもおかしくなかろう。そもそも111円台までの切り返し、米追加利上げ観測を織り込んでいた結果だったから、スピード調整として最大の限度に達したとみる。ゆえに、ここから市況は測る場合、以下の二つの視点が重要になってこよう。一つはドル/円が一気に105円台を打診していたから、そもそもスピード調整のニーズがあった。だから、5月いっぱいの切り返しが円高トレンドをより健全化したといえる。もうひとつは、スピード調整と言うなら、これからドル/円が4月28日高値111.88を超えれずにして安値更新しなければならないこと。そうでないと、円高トレンドが継続されるとはいえず、また内部構造に変化が生じるということになる。ちなみに、4月28日とはこの前、日銀が政策見送り日であったから、同日の高値が一層分水嶺の役割を果たすと思われる。

ドル全体に関しては、前回コラムにて指摘していたように、米追加利上げの可能性やその効果を過大評価すべきではない。今晩の米雇用統計次第、また思惑に主導された形で反乱してきる可能性が大きいが、基本的には6月利上げの可能性がなお小さく、早くても7月利上げといった市場センチメントが目下のレートに大分織り込まれたかと見る。従って、これからサプライズがあるなら、7月利上げ可能よりも7月利上げ不可能といった思惑に出やすく、やはりドル全面高の余地が限られるかと思う。実際、目先ドルインデックスが100日線(≒95.95)に抑えられ、この上200日線(≒96.92)が控えれおり、ブルトレンドへ復帰するにはハードルが高いとみる。

この意味では、主要外貨のほうがそう弱くならないかもしれない。量的緩和余地ありとされるユーロは200日線を維持、利下げ余地ありとされる豪ドルも200日線前後にキープ、ドル高一辺倒の市況に程遠い。EU離脱問題で不安定なポンドでも100日線前後に維持、ドル全体が強くない様子を窺える。要するに、利上げ利上げと持て囃されるほどドルが強くないから、この辺のリスクが逆に要注意なわけだ。

ドル高になりきれない根本のは背景にはやはり追加利上げに確信を持たないところが大きい。何しろ、昨年夏から鮮明になってきたチャイナリスクがなお消えていないばかりか、いつ再燃してもおかしくない状況が見逃せないからだ。昨年と同様、その発端として、人民元の動向が気になるから、足元人民元安の再開がもっとも市場関係者の神経をとがらせている。

イエレンFRB議長が「今後数か月利上げ可能」と表明して以来、中国当局は連日人民元相場の中間レートを低く設定し、人民元安を誘導してきた。人民元対ドル、すでに5年ぶり安値近辺に推移しているから、昨年8月のように、いつ一気に下落してきてもおかしくない情勢だ。米利上げがあれば、資本流失が一層強まるから、中国当局はできるだけ先手を打ちたいが、人民元安誘導策は思わぬ相場の大暴落を引き起こすリスクが大きい。

中国経済減速につれ、人民元資産を処分し、海外脱出を測る国内資本が多く、海外逃避の道が完全に塞がれないから、人民元安誘導策自体が正しいとしても、コントロール不可能性な資本流失局面を招く可能性があり、パニック相場の再来が危惧される。昨年夏の人民元ショックが中国国内株市場の暴落を引き起こしたのみではなく、世界金融市場の混乱をもたらしてきたから、この夏もチャイナショックで再び波乱万丈の展開になるか。この変の疑心暗鬼が消えないうち、米早期利上げ観測が簡単に高まらず、むしろ一旦お預けになる公算が大きいかと思う。だから、ドル全面高のシナリオに距離をおき、また円高トレンドの加速を覚悟しておきたい。

日本の夏は「緊張」(金鳥)の夏だから、「冷やし中華」からスタートされるか。市況はいかに。