前回コラムで予想したドル全体の早期頭打ち、また反落するといった市況が見られず、むしろ一段とドル高になっている。ドルインデックスは102関門をトライ、2001年高値(約121)~2008年安値(約70.79)の全下落幅の半分程度を回復し、ドル/円は一気に114関門手前に迫り、2015年高値(約125.86)~今年6月安値(約98.95)の全下落幅の半分戻し(約112.41)をすでに超えている。

所謂「トランプ・ラリー」がもたらした相場の大逆転、また変動率の拡大が為替相場に限った話ではないが、ドル/円に限って、この三週間の急伸、事実上変動相場に移った以来もっとも大きな上昇率を記録したのでは。詳細のデータをチェックしないと言い切れないが、仮にそうでなくても、2番目の記録を達成したことは間違いないと思う。

となると、当然のように、ドルのブルトレンドが継続され、これからドル全面高が続くといったシナリオが当然視されるが、ドル高の原動力がどこにあるかをもう一回確認しておきたい。

既述したように、トランプ氏の当選、マーケットにとってサプライズだったが、それ以上にサプライズだったことははやり「トランプ・ラリー」の進行だと思う。この意味合いにおいて、「トランプ・ラリー」の行き過ぎがあれば、勝者のみではなく、敗者サイドの事情も見ないといけないかと思う。

ドル/円の話なら単純だ。トランプ優勢が伝われた9日の朝からドルのショートポジションが積み上げられ、同日夜米株の上昇とともに、ショート筋が踏み上げられ、その後のドル上昇につながった。その後、ドルのロング筋がドル高を推し進める一方、急速なドル高の進行を見て、「ここまでのドル高が行き過ぎだろう」と思う新規ショートの参入が実にドルを一段押し上げた可能性が大きい。換言すれば、史上でも稀に見られないドル高のスピード違反を売りチャンスと捉えた新規ショート筋が結果的にまた踏みあげられたので、「行き過ぎた」ドル高が更なる「行き過ぎ」をもたらしたわけだ。このような構図、ドル全体にも通用するかと思う。

もっとも、相場が行き過ぎかどうかを測るのは決して容易なことではなく、また目先の相場のように、「行き過ぎ」の判断自体が正しいとしても、必ずしもトレードの根拠としてよい結果につながるとは限らないから、相場の難しいところだ。とはいえ、一本調子の相場、このまま継続されていくことは当然ない上、あまりにも見られない一本調子な市況だから、冷静に再考する価値があると思う。

筆者は前回コラムにて指摘した可能性、すなわちドル/円が「早ければ今晩、遅ければ来週前半にて反落してくる」という蓋然性が高くなっていると思う。今週の「行き過ぎ」があったからこそ、シナリオが否定されたのではなく、一段と可能性が増してくるわけで、基本的な考えが変わっていない。

ファンダメンタルズでは、「トランプ・ラリー」の本質、所謂「トランプノミクス」の先取りや米利上げを織り込んだ結果に違いがないが、そもそも「トランプノミクス」自体が幻想にすぎず、また来月米利上げ観測がすでに100%織り込まれている以上、「トランプ・ラリー」自体も行き過ぎで、かなり終盤に近いと思う。「トランプノミクス」自体がなぜ幻想であるかについて、また次回に譲れるが、米利上げ観測の「確実」についてもうすこし検証ししておきたい。

イエレンFRB議長の議会証言やFOMC議事録の公開もあって、米国債先物やオプション市場が示す米12月利上げの確率がすでに100%を超えている。100%超えとは一回の利上げが25bps以上の可能性さえを織り込んでいるところで、来月の利上げは確実視されるから、米国債利回りの上昇(国債下落)とともに、ドル高の根拠と解釈されている。

しかし、考えてみれば、今更というか、ギリギリまで利上げ確実云々ということ自体、いかにこの前利上げが「不確実」だったかを物語る上、昨年年末「来年4回利上げあり」といった市場のセンチメントがいかに外れていたかを分かる。さらに、今でも来月の利上げを「早期利上げ」という一部マスコミの表現がいかに滑稽であるかもお分かりいただけるかと思う。

要するに、米利上げ自体が来月確実に行わる公算だが、利上げ自体がとっても「晩期」になった分、これからドルを押し上げるのではなく、むしろドルのロングポジションを処理する機会になりやすい。何しろ、ドルがすでに異常なほど急伸した分、反転させるには何等かの「材料」が必要としているはずだ。今回の材料はほかならぬ、「噂で買い、実で売り」の相場格言の示唆通りの相場の習性のでは。

この意味合いでは、「トランプ・ラリー」も同じだと思う。所謂「トランプノミクス」へのユーフォリア、せいぜいトランプがホワイトハウス入り前のでは。逆説でまたやや大げさな言い方をすれば、本格的な「トランプショック」、トランプ氏が米大統領就任してからだ、油断は禁物である。市況はいかに。