トランプ米大統領の誕生でサプライズの連続があった。そもそもトランプ氏が当選される自体がマーケットにとってサプライズであったが、更に市場関係者を驚かせたのがその後マーケットの反応だった。

筆者にとって、所謂「トランプ・ショック」がもたらした市場の急落自体を当然視していたから、全く問題ではなかった。またその後米株をはじめ、マーケットが回復し、逆に高値を更新していくことも今まで何回も経験してきたからさほどサプライズとは言えない。但し、何より驚いたのは、その反転のスピードだった。 選挙日の9日、ダウ先物は時間外約5%も下落していたが、NY時間では主要3指数がそろって大幅高となり、結局ダウは1.4%高で大引けした。それとリンクした形で、ドル/円は101.16まで売られたものの、結局当時105.90まで反騰、7月27日以来の高値を付けた。そして、当日の始値が104.97だったから、日足の罫線が長い「足」をつけた反転となり、その「足」の部分、昨年「人民元ショック」の8月24日よりも長かったことに実に驚いた。 ドルの対極としてユーロの値動きがもっと激しいものだった。ユーロ/ドルはざら場高値の1.1299から1.0904まで急落、そして当日の始値が1.1018だったから、日足では長い「上髭」を付けた大陰線となり、やはりこんに長い「上髭」、近年稀にしか見られないものだ。同日同じ長い「上髭」を付けたゴールドの日足も印象的だったが、総じてドルの強さを証左、当然のように、一昨日、ドルインデックスが長い「足」を持つ陽線で大引けした足型自体もなかなか見事というか、滅多に見られない罫線であった。

今となって、なぜこのような激しい反転がみられたかについて、多くの解釈が行われたが、後解釈に過ぎないと思う。というのが、市場自体のパフォーマンスからにしても、事前のセンチメントにしても、そもそもトランプ氏の当選が予想されていなかったから、今更「トランプ・ショックが一時的」云々を言っても説得力に欠ける。 但し、後解釈でも正論であるなら、聞いておく価値がある。いろんな解釈があったものの、要するにトランプ氏が積極財政スタンスを表明していたから、経済成長やインフレへの期待が高まったから株が買われ、債券が売られた。米10年債利回りは年初来の2%を超え、日米金利差の拡大でドル高/円安につながったのも当然な成り行きだという。 この勢いでダウ指数は先週史上最高値を更新、「トランプ・ショック」ばかりか、「トランプ・ バブル」の様子を呈している。が、勝ち組の米株の中、ナスダックの下落や後進が目立ったように、明暗分けもあったから、トランプ政権運営に市場の期待と不安が混じりこんでいるとも読み取れる。

そもそもトランプ氏は商人であったか、政治家としての経験は全くなかった。氏の政治理念や政策主張、過激というか、幼稚というか、現実に通用するかどうか全く未知数のところが多く、トランプ政権に安心したという解釈は性急であり、また幾分滑稽に聞こえる。 今回の米大統領選、米史上もっとも見苦しい選挙で、また有限者がもっとも分裂した選挙と言われたばかりだったのに、選挙が終わった途端、すべて安心したわけがない。安心したところがあれば、当選した後、トランプ氏が今までの主張を一旦封印、「大人」としての穏やかな口調(氏にふさしくないともいえる)に終始したことのみのでは。が、これからトランプ氏が従来の過激の主張を全く言わなくなるのも想定しにくいから、この意味では、本当の「トランプ・ショック」、これからだといえる。だから、目先マーケットの安心感、ホンモノかどうかは極めて疑わしいものだ。 昨年8月の「人民元ショック」にしても、今年6月英EU離脱にしても、米株nパフォーマンスを限って言えば、所謂ショックの克服に強かったし、また「慣例」になったから、今回市場の反応に繋がった要素が大きかったのでは。

言い換えれば、目先マーケットの反応、トランプ政権に対する信頼云々よりも単にマーケットが学習機能を果たし、また経験上の行動パターンを繰り返しただけのでは。この意味合いでも、目先のパフォーマンスと中長期の展望を分けて考える必要があると思う。 そもそも、この二日マーケットのパフォーマンスに矛盾を感じたところも多い。ひとつはインフレ期待の高まりが解釈される一方、金の急落が見られるように、インフレ期待が本当に上昇したかは疑わしい。なぜなら、インフレにもっとも敏感なのが金のはずで、金の急落、単純にドル高がもたした判断なのか、それとも構造的に所謂インフレ期待を否定しているのかを見決めるべきだ。 もうひとつはもっと単純明快だ。インフレ期待がもたらした金利の上昇がホンモノなら、史上最高値を更新し続けている米株「バブル」を助走するのではなく、とどめを刺す役割を果たすはずだ。現在のように、米金利上昇や利上げ期待が株高の背景として解釈されるのが普通ではないから、果たしてこのような市況が続くかどうかもかなり疑問だ。 このように、この二日マーケットの激動、深思熟慮した市場参加者の決定よりも、学習効果を果たしたヘッジファンドやアルゴリズム取引に主導された短期売買が作った一時の現象、という公算が大きい。ウオール街の連中の多くは、トランプ氏の当選さえ予測していなかったし、また氏の主張や政策を散々批判処か、大分馬鹿にしてきただけに、今心よりトランプ政権を歓迎しているわけもない。表だけでも一時のユーフォニアを演出したに過ぎない。 だから、市場が再び逆転されることに警戒しておくのが正しいスタンスであろう。

が、ドル/円に限っていえば、これから再度100大台の打診ありといった従来のシナリオを維持する一方、足許ドル高/円安のトレンドが反転される前に最大110円の打診も警戒しておきたい。