ミセス・ワタナベは日本個人投資家の渾名であるが、先週よく眠れない日々を過ぎしてきたでしょう。株安に円急騰、日銀がマイナス金利を導入した間もないだけに、ショックも大きいかと推測される。

前回コラム、筆者が強調していた、マイナス金利導入でも昨年以上の円安があり得ないとのこと。が、その効果が今週に入って以来、一回も確認できず、また円高の巻き返し、先週の日銀政策がもたらした円安効果をすべて帳消し、更にそれ以上の円高が進んでいる目下の状況に鑑み、円高派の筆者でも驚きを禁じない。マーケットは常に我々の意表を突く存在であること、改めて感心しているところだ。

愕然としているのが、勿論ミセス・ワタナベらのみではなく、ドル高に賭けていたヘッジファンドらも然り。それに、よく眠れないと言えば、あの方もそうではないかと推測される。この方はほかならぬ、日銀総裁の黒田さんだ。

金融手段のイノベーションが無限と豪語した総裁、自分が「二枚舌」を意図的に演出したまで、腐心なサプライズを講じていたにも関われず、その効果、一日で終り、かつマーケットの「報復」にあったとは何か、QQE、QQE2に比べ、金融政策の波及効果どころか、その反対の状況を引き起こしているなら、重い責任を負う覚悟が勿論できているかなと思われる。

実際、本コラムを含め、筆者が繰り返し強調してきたことを理解できれば、黒田さんの政策、効かないばかりか逆効果のリスクが大きいことを悟れる。即ち、アベノミクス自体、目標(物価水準)に全く達成していないが、株高・円安とマインドの改善を促進し、これでアベノミクスが支持されたわけだ。そしてマインドの改善も株高・円安とリンクしていることが見逃せない。換言すれば、株高・円安が逆転すれば、マインドが再び悪化していくことが容易に推測される。

こういうこと、黒田さんほどよくお分かり、マイナス金利の導入或いはこれからマイナス金利の拡大で物価水準が達成できる保証はどこにもなく、予想達成時期も何回が後伸ばされてきた分、再度修正される公算が大きい。しかし、それでもQQEに拘っているのは、株安・円高への逆転をどうしても阻止し、マインドの悪化を止めたいからだ。

言ってみれば、インフレターゲットがこれから達成されるぞと言い続けるには、株高・円安の環境が必要だ。そうでないと、皆が一斉に「王様が裸だぞ」と言い出すから、収束ができなくなる。言い方が悪いが、マイナス金利政策、黒田さん或いはアベノミクス自体が裸であることを隠すための「新服」に過ぎない。
しかし、マーケットは厳しい目を測らせ、時には少年の如き、真実をずばり言う。だから、今週以来の市況、「王様が裸だ」と言っているような値動きだと思う。そう言われたら、王様とはいえ、夜よく眠れるわけがない。

結局、日銀政策にしても、アベノミクスにして、外部環境の良さに乗ってきた部分が大きく、その表の成果(株高・円安)をもって効かない中身をカバーできてきたが、外部環境の著しく逆転してきた今、いくら政策を出しても中身を隠す所か、逆に中身が露呈され、疑問視される羽目に遭った。だから、今回日銀政策の効果が一日で終わり、逆にそれ以上の株安・円高を招いたわけだ。またちょっと失礼な言い方とすれば、マーケットから「勘違いするな」、「もううそをつくな」と説教されたようなものだ。