ドル高は続いている。ドルインデックス、一時99関門を打診、ドル/円も昨日から105大台乗せに成功した。米12月利上げが確実視され、ドル高の原動力になっている模様だ。

一方、本コラムがすでに指摘していたように、そもそも米12月利上げがあるとしても、そもそも「早期利上げ」ではなく、「晩期利上げ」となるから、相場はとっくにこれを織り込んでいたはずだ。では、なぜ「今更」のドル高なのか。

この答、債券マーケットから出そうで、その発源地もこの前EU離脱を決定した英国だ。英3QGDPの数字が予想より改善されたことを受け、英10年国債大幅下落、利回りが1.28%へ急上昇、EU離脱以来の最高レベルを更新した。

それを受けた形でドイツ国債市場も下落した。ドイツ10年債の利回り、0.17%まで上昇、5カ月ぶりの高い水準を記録した。テクニカル的に、同利回りが年初来初めて200日線を突破したから、市場関係者らに注目されるサインだと言える。

英独両国の「異変」が間もなく米国へ影響し始めた。米10年国債利回りも1.85%へ上昇、同じく5カ月ぶりの高値を記録した。このように、主要国の債券市場が揃って利回りが上昇(債券下落)、結果的に米ドルを押し上げたわけだ。何しろ、米ドルは年内利上げを有力視され、利回りにもっとも敏感である。

そのうえ、根本的なところ、ECB、日銀など米国以外の緩和政策が続かないのでは、といった懸念が強まっているからだ。マーケットは「潮」の変わり目を見極めようとしており、債券市場も神経質な値動きを見せているわけだ。

要するに、世界主要国の債券市場が長い間上昇してきた。その背景にはやはり世界的な量的緩和の進行がもっと重要な要素として認識される。ここに来て、ECBも日銀も量的緩和の限界に直面しているから、市場関係者の多くはもはやドラギ議長や黒田総裁の言葉を額面通りに受け取れなくなったともいえる。

ドラギECB議長はQE縮小がないと言い、黒田BOE総裁はインフレターゲットが達成されると強調。が、ドラギ議長も黒田総裁も、最近「弱音」を吐くようになり、マーケットがすでに緩和政策の失敗を意識し始め、また織り込もうとしていると見る。

黒田さんは2%のインフレターゲットを堅持しているものの、その達成時期がさらに後ずれしたことを認めた。通常の慣例では、日銀総裁が再任しないので、黒田さんの任期終了(2018年4月)まで、事実上2%のインフレ目標の達成が不可能なので、氏が再任しない限り、「失敗」したまま退任になる見通しだ。そのせいか、最近氏の言い方が大分「弱気」となり、この前、更なる量的緩和の見送りを暗示していた。

こういった「節目」の変化、結果的に主要国の債券市場を押し下げ、その流れの結束として米利回りの上昇をもたらし、最近のドル高に繋がったわけだが、米利回りの上昇、これからもドル高を推し進めかどうかは不透明だ。むしろ、このような構図、長続きしないことを念頭においたほうが無難だと思う。

何しろ、米利回りの上昇、歴史的な高値圏における米株を押し下げ一大要因として浮上する公算が高く、また米株下落のトリガーとして十分あり得るからだ。2008のリーマンショック以来、米株はほぼ一貫して上昇し、また歴史的な高値圏を随分キープできたもっとも大きな背景は、米金利の長期低下環境に依存したことのほかあるまい。

換言すれば、米12月利上げがあっても、それは「晩期利上げ」と受け取れ、米金利がなお安定の推移に留まれば、米株にとってむしろ景気改善という好材料として受け取れるが、債券市場の下落がもたらした米金利の急上昇は明らかに悪材料に違いない。リスクオンからリスクオフのムードへ再び転換すれば、ドル高に依存している足許の円安が続くとは思わない。

更に、リスクオフに備えるべきだと思う理由はほかにもある。一時ほどではないが、劣勢と言われるトランプ氏の巻き戻し、全く不可能とは言い切れない上、もうひとつ見逃されがちな事情がこれからマーケットにインパクトをもたらすでしょう。イタリアの憲法国民投票だ。

イタリアレンツィ現政権、政治改革法案の賛否について12月4日に国民投票させる予定だ。現在の情勢、レンツィ現政権に厳しいと言われ、法案が否定される可能性が決して低くないという。仮に失敗した場合、イタリアの混乱が避けられず、反対党が公言しているEU離脱も現実味を増していくでしょう。伝統的にEUと距離を保ってきた英国ならまだましで、イタリアのEU離脱があれば、これこそEUの内部崩壊のほかあるまいだから、世界を席巻するリスクオフの流れも安易に回避できないでしょう。

もっとも、ドル/円に限って言えば、日銀政策の限界が見えてきた足許、専らドル高に反映しているのも幾分奇妙に映る。周知のように、円安は日銀の緩和政策に依存、そして円高はリスクオフに依存する傾向が強いから、日銀緩和政策の終焉という大きな材料をまだまだ消化しきれずにいるのでは。値動きに反映させていくきっかけ、やはりどこかでなにかのリスクオフか、そのタイミングも近づいていると思う。市況はいかに。