「トランプ・ラリー」は続いている。トレンドの進行が続くうち、後追う形で次から次へと新しい材料が出てくる傾向がある、今回も然りである。

合意難航と言われたOPECが珍しく減産に合意した。これを受け、原油の急騰とともにリスクオンのセンチメントが再度刺激され、株高・円安・金安といった典型的な連鎖反応を引き起こし、ドル/円は114.83まで続伸した。ドル/円のオーバーボート、前回コラムの指摘通りだったが、このような材料をさらに反応せずにいられなかった。

2008年のリーマンショック以降、ブラックスワン理論が流行っていた。同理論とは、「ありえなくて起こりえない」と思われていたことはいったん急に起きる場合、予測できない、非常に強い衝撃を与える、というものだが、同定義に沿った形で今回の「トランプ・ラリー」を見てみると、これも一種の「ブラックスワン」ではないかと思う。

なにしろ、トランプ氏の当選が予想されず、また当選した場合、所謂「トランプショック」が想定されていたから、当選が確実した日(11月9日)から大逆転、そしてその後一本調子の株高・円安・金安の進行、どれも「ありえなくておこりえない」とされる市況だった。が、「ブラックスワン」と呼ばれていないのは、株が急落ではなく急伸したからだ。

所謂金融危機、株の暴落に伴っているから、当然のように、株安は「悪」である。しかし、為替の世界はそもそも通貨の交換関係の上に成り立つもので、ドル高か円高の違いがあっても、ドル高はよし、円高はよくないという区別をできない。従って、今回の「トランプ・ラリー」、すくなくとも円の立場からみると、「ブラックスワン」と呼んでも間違いがなかろう。

実は「ブラックスワン」という表現、やや過激があっても、今回の「トランプ・ラリー」の本質をよく説明できるかと思う。詰まる処、今だからこそ猫も杓子も「トランプ・ラリー」を煽っているが、実は彼らが今まで「ホワイトスワン」しか想定していなかったし、また「ブラックスワン」の出現で「たまたま」彼らが事前に予想していた株高・円安が大きく進行しているから、都合がよいわけだ。

ウオール街の連中、直近までクリントン氏の勝利に賭け、精一杯氏を応援してきた。なにしろ、ウオール街はトランプ氏の勝利があった場合、株暴落の局面を想定、また怯えていた。ふたを開けてみると、まったく予想が外れたものの、相場の反応が事前の「クリントン氏当選の株高」と同じばかりか、想定をはるかに超えた株高の進行が確認されたから、鄧小平氏の「白いネコでも黒いネコでも、ネズミを捕るネコはいいネコだ」と言わんばかりに、ウオール街のロジックは「白いスワンでも黒いスワンでも、株を上げるスワンは歓迎されるスワンだ」、と実に単純明快だ。

予想外、また事前に「ありえない」と思われる市況だからこそ、「ありえない」のオーバーをしがちで、足許のドル/円はその好例であろう。実際、ドル/円11月の上昇幅、1995年以来の記録を更新、「トランプ・ラリー」自体がいかに「ブラックスワン」で、いかに強い衝撃をもたらしたかを物語る。

しかし、トランプ氏の施政方針や理念、最初から多くの矛盾を抱えていた。氏自身の素質もあって、インテリー層にバカされてきた理由もそこにあった。言ってもみれば、トランプ氏の当選、根本的には彼が米白人階級をメインとした中産階級の危機感を煽ったところに成功したとしても、決して彼の施政方針が理解され、また支持されたものではなかった。なぜなら、氏の主張、すこし常識があれば、あまりにも大きな矛盾をすぐわかるはずだった。

細かいところ、また経済領域以外の部分を除く場合、トランプの施政方針と理念に主に以下の3つの矛盾点が抱えていると指摘できる。

  • インフラー投資拡大と貿易保護主義が共存できない
  • インフレ期待と強いドルは同時達成できない
  • 金融自由化と貧富格差の減少を同時目指せない

所謂「トランプノミクス」と持て囃される氏の主張、積極財政と大型投資を標ぼうしながら、「メード・イン・アメリカ」に拘る貿易、製造保護主義の姿勢と矛盾する。アメリカの鉄道運送量の増減、一貫して諸外国貿易量の増減と高い相関性を示しているように、トランプ氏が本当に大型国内投資を推進していくなら、彼が主張している外国移民を追い出すのではなく、もっと多く受け入れないといけないし、米企業の本土回帰を強要するのではなく、もっと積極的に諸外国と自由な貿易関係を作らなければならないはずだ。

この辺の知識、ウオール街の連中が十分持っているが、株高をもたらした「クラックスワン」に誰も「あいつはブラックだ」と言わなくなっている。ましてやトランプ氏がウオール街出身者を重要ポストに起用する考えで、今はトランプ政権との「蜜月」を演じなければならないから、あえて目をつぶしているはずだ。

もちろん、ウオール街とはいえ、すべてがそうとはいえない。債券王ビル・クロス氏はトランプが4年の大統領任期を全うできないと予想、新債券王のガンドラック氏は「トランプ・ラリー」が、トランプ氏が正式に米大統領に就任するまで終るだろうと警告している。そして、筆者としては、「トランプ・ラリー」そこまで待たなくて、今月米利上げ前後しか続かないのではと思う。この辺の考え方やトランプ氏施政方針の矛盾に関する詳説、また次回に譲るが、ドル/円に関して、「トランプ・ラリー」の更なる行き過ぎがあってもせいぜい116円台で終わり、また次のターゲット、120より110のほうが現実的、という結論を記しておく。市況はいかに。