日本ほど自国通貨安を渇望する国はない。しかし、皮肉なのが、1970年代から2011年までの長期相場を見る限り、所謂本格的な円安の時代はなかったと言える。換言すれば、円安の時期があっても、その前円高の時期や値幅に比べ、調整的な変動に留まっていたから、一貫して雄大な円高トレンドが継続されてきたと言える。

2011年10月末からまた円安の時期に入り、アベクロ(アベノミクスと日銀の異次元量的緩和)があって昨年6月126大台手前までドル高/円安をもたらしたが、長期スパンにおける位置づけはなお不透明である。何しろ、2011年ドルの最安値から見た上昇幅が確かに大きかったものの、過去のドル高/円安の時期における値幅と比べ、必ずしも大きいとは言えない。その上、何より指摘しておきたいのは、所謂アベクロ政策が円売りを大きく作用していたことだ。換言すれば、異次元にマイナス金利といった前人未踏の領域に踏み込んだ日銀政策(アベノミクスは事実上金融政策のみ効果があったなので、日銀政策のみ論じても問題がないかと思う)が効いたからこそ、昨年夏までのドル高/円安を大きく推進したわけで、政策のインパクトを配慮すると、昨年高値までのドル高/円安が自慢できるほどの成果ではなかったと言える。
ましてや現在のレートが逆戻りし、日銀が今年1月末に打ち出したマイナス金利政策ばかりか、2014年10月末打ち出した追加緩和の「成績」を帳消ししているから、アベクロがつい市場の審判を受け、正式に失敗したと宣言されたもの。故に、円高自体がもう終わり、これから本格的な円安時代に入っていくと自信をもって言えなくなるでしょう。何を隠そう、筆者もそのひとりだ。2011年以降、円安時代に突入したのではと考えていたが、現在は動揺し、もしかしたら円高の流れがまだ続くのではと思うようになっている。

マーケット自体の内部構造以外、ファンダメンタルズ上の理由があるとしたら、何よりもアベクロの失敗や終焉が挙げられる。ここまで日銀がこんなに「努力」してきたにも関わらず、インフレターゲットの達成、一向に現実味が増してこないから、これからいくら「努力」しても効かないし、場合によっては今年1月末のマイナス金利付きQQE導入時のように、政策の逆噴射を招くリスクが大きい。そもそも、日本は老人化が進んでおり、マイナス金利政策に相応しい土壌がないと言える。マイナス金利の拡大や維持があればあるほど、これからもメリットが出なく、デメリットばかりを招くでしょう。日銀の完全なる敗北、そして黒田さんの「引責」もそう遠くないか思うほど、マーケットがアベクロの終わりの始まりを示唆していると思う。

従って、現在ドル/円の値動き、投機筋云々のミクロ的な視点ではなく、アベクロの失敗を宣言するものと捉えれば、一段とわかりやすく、また納得できるでしょう。この意味では、相場の逆戻り、即ち円高/株安がなお途中で、中国を始め、世界金融市場の不安定があれば、ドル/円は今年にて100心理大台割れもあり得る。この場合、経済のみではなく、政局の変化にもつながっていくと思われるから、2016年は波乱の年だと再度強調しておきたい。