ドル/円が下値トライしている。前回コラムで指摘したように、8月2日安値を割り込み、「インサイド」の下放れを果たしただけではなく、7月8日安値の99.99も一時割り込んでいたので、ベアトレンド再開のサインとして無視できないと思う。

巷では円高トレンドの加速、といった見通しが圧倒的に多く、ドル/円の「節目破り」がこういった見通しに勢いを増したと思う。しかし、現時点において、筆者が円高トレンドを警戒しつつも6月安値割れといった見方になお懐疑的で、市場コンセンサスが合致すればするほど、実はトレンドが修正されやすいのではと疑っている。ちなみに、業者によって6月安値(6月24日英国民投票日)のレートが違ってくるが、大まかに98.95~99.02前後が安値の記録だったので、現時点、同安値を下回っていない。

根拠は極めてシンプルだ。8月2日安値100.68を割り込んだ時点で同日罫線を「母線」とした「インサイド」(ハラミ)の下放れが確認されたわけで、同計算値の98.53前後に早く打診しないと下落モメンタムの加速が見られたとは言い切れない。何しろ、7月8日安値99.99も一旦割り込んでいたから、本来6月安値の割り込みが容易いものだったが、現時点まで割り込んでいないため、どちらかというと、「理屈通り」の値動きになっていないと見る。

換言すれば、テクニカル上の重要な節目を割り込んでいたものの、それと比例したトレンドの進行とモメンタムの加速が見られていなければ、性急な判断を避けたほうがよいか思う。相場における天井や底、往々にして後でないとはっきりわからないとされている以上、積極的な逆張りができないものの、高、安値を追えるかどうかも慎重なスタンスを図りたい。

もっとも、昨年以来、筆者が一貫して円高トレンドの余地を指摘してきたが、6月24日英EU離脱を決定した日をもって、ドル/円の下値打診自体がすでに目標達成した公算が高いのではと思うようになった。何しろ、相場の転換点、往々にして大きなサプライズに伴った場合が多かったから、英EU離脱が大きなサプライズであった以上、円高のクライマックスを果たした可能性も比例して大きいと思う。

この上、筆者が円高トレンドの進行を一貫して指摘してきた理由はほかならぬ、昨年6月まえの円安トレンドの進行が「行き過ぎ」であったからだ。言い換えれば、足元進行している円高、本質的に2011年10月安値を起点とした円安トレンドに対する修正であり、円高トレンド自体が大局面で見ると、所謂「推進波」ではなく、「修正波」であるわけで、おのずと限度がある。

その限度を図るのが決して容易いものではないが、手掛かりがある。円の実効レートでみる5年平均が6月安値とほぼ合致していたので、円が均衡状態にいることが分かる。昨年20%以上のかい離から大分解消してきたので、円高の一服があってもおかしくなかろう。

強調しておきたいのは、ドル/円の値動き、巷が思ったほど所謂ファンダメンタルズと緊密な関係をもっていないはずだ。もっとも有力な事例とは、今年1月末日銀がマイナス金利政策を発表した後、円安ではなく大幅な円高をもたらした市況だ。後解釈としていろいろ理由づけられたが、根本のところ、当時のレートがまだ円安トレンドに対する修正が不十分だったので、所謂政策の「逆噴射」が招いたわけだ。

となると、現在解釈される円高トレンド継続の根拠、果たしてどれぐらい信憑性があるでしょうか。日銀政策限界論で円高継続といったロジック、1月末の時点における「マイナス金利政策が導入されると円安」と同じく検証に耐えないかもしれない。

更に、ドル/円と日本株のみが世界情勢と違うトレンドになっていることも注意していただきたい。FRB早期利上げなしだからドル売り/円買い云々の論調、実はちょっと前のロジックと違っていることもやや異常だと思う。

なにしろ、円がリスク回避先通貨と見做され、本来米利上げ延期なら米株にプラスの効果を発揮、円安傾向につながるはずだ。実際、米三大指数が揃って史上高値を更新しているなら、こういったロジックが聞こえなくなり、専ら日銀政策限界論云々が異例で異常だといえる。

この意味では、日本株のパフォーマンスが米株と大分背離しているところも円高の影響だと思われる。日銀政策限界論による「行き過ぎた円高」が日本株のパフォーマンスを押し下げ、日本株の不振で今度は円高に作用、といった「悪循環」が出来ているように見える。

筆者が一貫してアベノミクスに批判的な立場を取ってきたが、今でも変わらない。しかし、かと言って、アベノミクスの失敗で目先円がどんどん高くなるとも思わらない。相場のことは相場に聞くなら、この前アベノミクスを礼賛した一部のセンセイらが批判的な見方に展転換し始めている目下だからこそ、円高の行き過ぎが鮮明になってきたではないかと思う。

再度にドル全体の状況もやや売られすぎではないと思う。ユーロ/ドルの切り返し、大分いいところまできているので、これ以上の大幅な伸びが難しいと思う。前回利下げ後続伸してきた豪ドル/ドルがいち早く頭打ちのサインを点灯しているので、ドル全体の底打ちを示唆していると見る。