海外出張の間、日米金利決定があり、とりわけ日銀の政策決定が注目されていた。所謂「新QQE」について、賛美両論となっているが、日銀が「量」から「質」へ舵取りを取った、といった見方が共有されているようだ。
具体的な政策の中身やそれに関する解釈はエコノミストらにお任せしたいが、為替市場に対する影響について、円安方向に持て行かなかったことが観察された。一方、1月末日銀会合後のような急激な円高にもつながっていないから、「普通」の日銀会合であった、といった印象が強い。
その背景には、やはり「黒田路線」の修正があったのでは。「戦力の逐次投入はしない」や「2年2%の目標達成」と公言してきた黒田日銀総裁、ここに来て「長期戦」にシフトしてきたと見られ、必然的にお得意の「サプライズ演出」をできなくなった。もう「普通」の中央銀行に戻ったわけで、1月末日銀会合を最後に、これからも「日銀会合相場」、即ち日銀政策がもたらす大相場はもうないと悟るべきだと思う。
「普通の中央銀行」に戻った日銀、「普通の総裁」に戻った黒田さん、政策の出尽くしを物語る。だから、今回日銀の決定に国債買い入れ額減額があったこと自体、所謂「テーパリング」(QE縮小)へ向かう下準備と見るべきだ。この意味では、為替面においても、これから日銀政策を依存する円安傾向が限られ、日銀政策へ過度な期待自体も次第になくなっていくでしょう。
もっとも、円高/円安の決め手、日銀政策よりもリスクオン/オフの環境がより重要だった。換言すれば、アベノミクス構造が打ち出してきた以来、大幅な円安進行が日銀政策のほか、リスクオンの外部環境が不可欠な要素だった。アベノミクスがもたらした随一な結果、即ち円安が世界的なリスクオンの環境が長く続いてきた結果だった。しかし、昨年から人民元ショックを皮切りに、外部環境が不安定になってきたから、円安トレンドが修正され、足許まで円高傾向が強まめてきたわけだ。要するに、これから円高傾向が修正されるかどうかは日銀云々よりも外部環境のほうがカギを握る。
確かに最近中国絡みのネガティプの材料があまり浮上していないが、代わりにドイツからいろいろ出てきたので、外部環境の悪化が警戒される。ドイツ銀行の困境が伝われて大分時間が立ったところ、そもそもかなり脆くなっているドイツ銀行に、米司法省から「死刑判決」を出たので、ここに来てドイツ政府の救済なしではドイツ銀行が倒産する運命にあるのではと市場関係者らが懸念を強めている。
現在ドイツ銀行が抱える訴訟や調査は、数えきれないほどの件数ありと噂され、賠償や和解金だけでも天文学的な金額になると試算される。この上、巨額なデリバティプを抱えていると言われ、その中身が解明されていないだけに、そのリスクが更に膨らんでいくとも推測される。こんな状況の中、米司法省がなんと同行に1.4兆円相当の罰金を課すことにしたから、文字通り絶体絶命の危機に陥れている。ドイツ銀行だけではなく、コルメツ銀行などほかのドイツ銀行も大規模なリストラを断行、困境に陥れていることが露呈され、ドイツ発金融危機が懸念されるわけだ。
このような外部環境において、円高傾向がなかなか修正されず、場合によってはモメンタムを伴う大幅の進行が想定される。前述のように、もう日銀政策云々のところがなくなるから、これからドイツ銀行危機の行方が市況を左右するか想う。
そのほかの注目材料、或いは市況を左右できる材料は米大統領選の行方であろう。目先ヒラリー女史がやや優勢と伝われているが、民主、共和両陣営の支持率が互角しているだけに、油断できない。ヒラリー氏の健康不安のほか、米本土のテロと疑われる事件の続出がトランプ氏の支持を上げる可能性が大きいから、大統領選が結果を出るまで、なかなかリスクオンへ反応するのが難しいかと思う。
総合的にみると、目下の外部環境において、円安方向に大幅推進させる可能性は小さいと思われる。更に、中国絡みの材料もこれから出てくると推測されるから、やはり円高傾向がすでに終焉したといった判断が性急すぎで、またリスキーな考え方だと思う。