【21年10月28日】今日は「塩漬け」という状態について書こうと思います。よく仲間うちで話していると、「株が下がっちゃって、もう仕方ないからしばらく塩漬けだよ」なんていう話を聞いたりします。余裕のあるお金で買っている株なので、これは別に問題ではないのでしょう。またFX関連のツイッターでも、「GBPJPYがやっと150円を回復して、つかまっていたロングをチャラで逃げることができました」という嬉しそうなツイートを見かけたりしました。ちょっと前まで、GBPJPYは130円台から140円台で推移していたので、どんな気持ちで耐えていたのだろう、などと勝手に想像してしまいました。

「塩漬け」というのはポジションの状態ですから、トレードではありません。でもプロのFXの世界でも塩漬けは存在しました。1991年頃だったと思いますが、仲良くしている商社のトレーダーから相談を受けました。「実は会社で1億損している玉があるんだよね。」聞いてみるとそれはGBPJPYで、業界内では小さい百万ポンドのポジションだったのですが、250円台のロングでその時の実勢レートが150円台だったので、なんと100円もアゲインストのポジションだったのです。今さらもう、持ってるしかないんじゃないの? あと下がっても150円しか下がらないよ。なんていう話になって、結局それは彼自身が作ったポジションでもないし、うちの銀行が介在したトレードでもなかったのでそれで話は終わりました。GBPJPYのロングならスワップポイントは稼げるし、1993年には240円まで上昇したので、おそらくそのあたりで手仕舞えたのではないかと推測しています。

そういう他人事のポジションならよいのですが、顧客が私の銀行で取引したポジションが塩漬けになると、けっこう厄介な問題になります。顧客と銀行との外為取引はまず、スポットといって、2営業日後渡しのマーケットレートで取引されます。ここでは詳しく書きませんが、現在証拠金業者でFXとして提示されているFXレートは、インターバンクで取引されているこのスポットレートがもとになっています。それで、顧客は2営業日後に決済するつもりがなければ、例えば輸入業者なら3か月後にUSDが必要なら、まずスポットでUSDJPYを買って、手当したUSDをスワップレートを使って、3か月後に決済を延長するのです。この決済日をいつにするか決めることを、足決めと呼んでいます

普通は1回の足決めで決済日が決まるのですが、実需のトレードの他に投機的な売買をしている顧客の中には、ポジションがアゲインストになると、決済するのを嫌って足決めで延ばしていた決済日をさらに先延ばしする会社がありました。結局マーケットで決済して損失がなくなるまで、塩漬けにするのです。この損切りの先延ばしを業界では、ヒストリカルレート、ロールオーバー(HRRO)と呼んでいました。損の先延ばしは良いことではないので、現在の外国為替市場では、もう行われていません。でも1990年代まで、こういう悪い慣習が業界にはありました。

私はもともとデイトレーダーですから、塩漬けには縁がありません。それにアゲインストのポジションで散々苦しい思いをして、チャラで逃げることにどれほどの意味があるのか、と考えていて、塩漬けにするという行為そのものがまったく理解できません。要は性に合わないのですが、塩漬けを嫌うのはそれだけが理由ではありません。先ほどのHRROで苦いトラウマがあるのです。次回はそのトラウマについて書きます。私のメルマガでは、遅くとも翌日にはポジションを全部手仕舞うので塩漬けはありませんが、FXの個人投資家のみなさんにも、塩漬けは絶対避けてほしいと心から願っています。塩漬けはFXからトレードの楽しさを奪います。そのことについても、次回書いていきたいと思います。