【21年11月4日】「塩漬け」の続きを書きます。個人投資家がFXで塩漬けする場合、証拠金が底をついて強制ロスカットにならない限り、問題ありません。塩漬けではありませんが、新興国の高金利通貨を買って円を売るポジションを持って、スワップポイントを稼ぐことによって、外貨預金と同じ成果を狙っている人もいます。

レバリッジを1倍にしたポジションなら、まさしく外貨預金と同等の性質になるので、この取引でスワップポイントが大きいことを宣伝している証拠金業者も多いようです。ところでトレードのスプレッドはどこも似たりよったりですが、スワップポイントは業者によってルールも大きさも違います。これはあまり知られていませんが、スワップポイントについては、特に規制がないからです。この話を書くと、またまた話がそれていくので、これについてはまたの機会に書くことにします。

さてプロの世界で、例えば大企業が取引銀行との間で外為取引をおこない、損失がでてそれを先延ばしにしていくと、どのようなことが起きるでしょうか。私は会計の専門家でないのでよくわかりませんが、私が業界に入った当時は、保有資産を市場価格に引き直して損益をだすことの重要性があまり問われていない時代でした。取得価格で帳簿に載せることが多く、値洗いして減損処理をきちんとしていたのかも、よくわからないのですが、とにかく日本では損を先伸ばしすることが、褒められることではないにしろ、厳しく禁止されている行為ではありませんでした。

ただ私は米系銀行に勤務していたので、早い時期から上層部はマークトゥマーケット(ポジションを時価評価すること)についてうるさく言っていました。私の銀行の顧客が取引で損失をだしそれを先伸ばしすると、その取引をインターバンクでカバーしているため、私の銀行もスワップ取引によって、決済を先延ばししなければなりません。これをする事務処理はもっと複雑なのでここでは述べませんが、要するに顧客が損失を先延ばししている限り、銀行はその顧客の損失の肩代わりをしていなければならないのです。

つまり飲み屋さんで言えば、客がツケで飲食を続けて、なかなか支払いをしてくれない状態です。この場合は単純な飲み代の肩代わりですが、外為取引の場合は、顧客のポジションが市場のアゲインストになればなるほど、損失は加速していきます。そして結局それは銀行が顧客に対しての大きな貸付をしていることと、同じことになるのです。

あるレベルにまで先延ばしが進むと、銀行の審査部門からイエローカードがでます。顧客ごとに信用枠があってその範囲内の損失でも、損失が大きくなると本店の審査や経営陣、ひいては本国の監督機関が問題にする可能性があるからです。しかしセールス部門はいつも懇意にしている顧客ですから、なるべく顧客の希望をかなえたいと考えます。「他行では延長をきちんと認めているそうです。もううちとは取引してもらえなくなります」と、セールスの責任者が資金部長の私に言ってきます。私は審査部門の責任者と話して、上層部の承認を得に行かなければなりません。すでにその頃、米国では時価評価が当たり前になっているので、誰も良い顔はしてくれません。悪名高い「ヒストリカルレートロールオーバー(HRRO)」でした。(ただし現在は損失の先延ばしはHRROの悪用とはっきり認識されているようです。)

結局、顧客にお願いして全決済してもらうことが多かったですが、怒ってそれから付き合いがなくなった顧客もかなりいました。顧客と銀行の板挟みになった私は、自分自身の損失でもないのに、かなりのストレスを抱えました。 でも数年後、顧客の上層部で問題が発覚して、世間に損失額を発表して社会問題になり、担当者が解雇されたり、子会社が倒産したりすることも起こりました。いずれにせよ、どれも後味の良いものはありませんでした。

こういったこともあって、私は塩漬けが大嫌いです。今でも苦い思い出です。

次回はもっと楽しい話を書くことにします。ディーラー仲間で相場について意見交換をすることがありますが、その情報交換あるあるを書いてみたいと思います。