【21年12月8日】今はどうか知りませんが、銀行ディーラーが顧客である商社や生保の外為担当者に、自分の相場観を伝え、ドル円などの売買のアドバイスをしたり、意見交換、情報交換をすることは、毎日の大事な仕事のひとつでした。私もそれを何年もしました。顧客だけではなく、トレード相手の銀行ディーラーともしましたし、立場上、本店支店のディーラーにも1日の自分の相場観を伝えたりもしました。でも、相手に伝えることはあっても、私は相手の相場観を聞くことは、あまりなかったように思います。

そんな中、他行のディーラーで、毎日というほどでなく、たまに相場について意見交換をする友人がいました。優秀で経験も豊富なディーラーでした。彼と電話で話して、「ドル円は上がると思ってるんだけど」となって、「自分もそう思っている」となった時、口には出さなかったものの、嫌な感じがしました。おそらく彼もそう思っていたと思います。ふたりがともに相場について同意見だった時に、その通りになったためしがないのです。「マーケットは自分も含めて皆同じ方向を考えている。気を付けて早めに逃げておいたほうが良さそうだ」となって、こういう時はお互いに役に立ったと思います。

それでは違う意見だった時はどうかと言うと、値動きを見ていれば、ポジションに居心地の良さを感じているほうと、そうでないほうが一目瞭然になります。私が居心地の悪いほうだった場合は、相手が言ったことが頭に残っていて、ポジションを早めにひっくり返すことが多かったです。そうやって難を逃れました。おそらく彼も居心地が悪い場合は同じことをしたと思います。ちょっとひねくれた利用法でしたが、お互いに役に立つ相場観の交換でした。毎日話をしていたら、そうならなかったかも知れませんが、たまに話す程度だったので、かえってとても印象に残っていたのかも知れません。

現在FX業界では、例えばドル円の今後の動きについて、色々な立場の人が、色々な根拠に基づいて毎日コメントしています。みなさんの中には、テレビや新聞によくでる有名なアナリストの相場観を参考にしている人もいると思いますが、友人にいるそういった人のひとりにあとで、「本当にそう思っているの?」と聞いてみると、「いや、うちの銀行の分析チームがだしている考えで、自分は必ずしもそう思っていない」と言っていました。組織を代表しての出演なので、その方針通りのコメントしかできない人もいます。また過去に活躍した有名ディーラーでも、出世してマネージメントが忙しく、実際のトレードの一線から長く離れていた人もいます。こういった人たちが、「大口投資家が売っている」などとコメントすることがあり、今も関係が続いているプロからの情報、と考えてしまう人がいるかも知れませんが、多くの場合現役の銀行ディーラーと関係が続いているOBはほとんどいません。過去の経験則に基づいての憶測コメントのことが多いです。実際、現在の銀行ディーラーが外部に売買情報を流すことも、禁じられています。

ツイッターを見ていると、自分のテクニカル分析に基づいて、トレードアイディアを発信している人がいます。フォロワーが多い人のものを見てみると、けっこうしっかりと分析していて、説得力のある人も多いです。その一方で、これはどう見てもポジショントークだな、と思えるツイートもあります。また、わざとセンセーショナルな相場予想をだして、これは注目を集めて商材を売りたいのだな、という人もいるように思います。

相場というものは、結局上がるか下がるかであって、どちらにいくのかは誰にもわかりません。なので、まったくの素人でも連続して当たってしまうということもあるのです。色々な相場観やトレードアイディアに触れて、これはと思う人の話を継続的に聞くことは良いことだと思います。ではどうやって、これはと思う人を選ぶのか。これはトレード経験を積んでいかないと、なかなかわからないことですが、トレードの予想そのものよりも、なぜそう予想するのかという根拠をはっきり示せている人を選んだほうがいいと思います。相性ということもありますから、まずその人の肩書やキャリアは忘れて、すっと頭に入ってしっくりくる相場観を伝えてくれる人を選ぶといいと思います。いずれにせよ、入ってくる相場観、相場情報は結局はただの参考意見です。トレード方針は自分で決めていかなくてはなりません。

それでは私のメルマガは、ということになると、私も一応は毎日売買ゾーンでの推奨エントリーをだしているので、トレードアイデアを提供している一員です。特色としては、今後12時間ぐらいの短期間での売り買いの指示がわかりやすいことですが、その売買を推奨する根拠の説明はあまりしていません。まずは本当の初心者の方にも、難しい説明をするのを避けて、トレードしてもらいたいこと。そのためには、ペン習字のようにお手本をなぞるように指示された売買をくり返すことによって、トレードを学んでもらいたいということが念頭にあります。トレード根拠については。やっていくうちに、ああこういう意図で売買ゾーンを設定しているのだな、とわかってもらえればよいと思いました。また中級上級者の方にも、私と一緒に売買ゾーン向上の研究をしてもらいたいと思いました。売買根拠は、明確に説明できるものと、私が気にかけるファンダメンタルズの部分と経験によるアノマリーのような、ちょっと説明が難しい部分があります。この是非については、私の推奨の結果を検証してもらうことで、判断してもらうしかないと思っています。

最後に、キャリアのことですが。私は28年間、銀行ディーラーでしたが、まったくの無名ではないと思いますが、それほど有名なディーラーでもありません。大玉を動かしてマーケットを席捲するようなディーラーでもなく、ただトレードが好きで負けてもめげることなくトレードを繰り返し、生き残ってきたディーラーです。マーケットからの利益も特に大きかったわけではありません。機関投資家やビッグプレーヤーの影に隠れ、必要ば分だけマーケットからいただいてくる、言ってみれば「借りぐらしのアリエッティ」(知らない人、ごめんなさい)みたいなトレード人生を自分の規範としてきました。今のところメルマガの成績が良くて、購読してくれる人が増えてうれしいのですが、私のトレードの考え方に共感して購読してくれる人も増えるように、がんばっていきたいです。