【22年4月18日】前回前々回のブログで、今一番注目されているUSDJPYについて書いてきました。前回のブログについては、マネーポストWEBで記事にもしていただきました。「20年ぶり円安」で日銀はどう動く? 過去の例からわかる「為替介入」の難しさ | マネーポストWEB (moneypost.jp)

今日はちょっと趣向を変えて、少しゆるい題材について書こうと思います。みなさんはFX会社のプラットホームを使って、PCやスマホでFXのトレードをしていると思いますが、そうしたトレードの中で、誤って売り買いの方向を間違えた、とか、ロットを間違えた、通貨ペアを間違えた、入力するレートを間違えた、など、普通に取引して損失がでたのではなく、うっかりしたミスで損失をだしたことはありませんか。これはみなさんだけでなく、ほとんどのプロトレーダーが経験するうっかりミスです。今日はそういったミスの例をあげながら、ミスの対処法についても書いていきたいと思います。

トレードは人がやることですから、プロアマを問わず、ミスも必ず生じます。私が見たり聞いたりして、これまで一番深刻だったミスは、取引額を間違えたトレーダーのミスです。まだ私がドイツ系の銀行の東京支店で見習いトレーダーだった頃、私の前任者の話を聞いたことがあります。おそらくトレーダーになって、半年から1年目ぐらいの人だったと思いますが(慣れてきたこれぐらいの時が一番危ないのです)、ある日ひとりで残業していて、フランクフルト本店に対して、500万ドイツマルクを対米ドルで買わなければならなくなったそうです。ドイツマルクはEURが導入されてから取引されることはなくなりましたが、以前は世界中の投機資金が流れ込む、プロの通貨と呼ばれる通貨でした。

当時のレートはちょっと忘れましたが、まだプラザ合意前だったので、1米ドル2.00以上の水準だったと思います。まあとにかく500万マルクを買うために、彼はテレックス(キーボードがついている昔の通信機器です)に向かって、フランクフルトを呼び出しました。当時の500万マルクは、1米ドル2.00のレートだったとしても、ドル価で250万ドル程度。通常ブローカーを通じて売買する銀行間の最低額が100万ドルでしたから、たいして大きな額ではありませんでした。

ここからは私の想像もちょっと入るのですが、彼は500万、500万と唱えながら、テレックスに向かったのではないかと思います。そして本店が応答すると、あろうことか、BUY DEM 500Mio ag USD と打電してしまったのです。この意味は、対米ドルで500millionマルクを買いたいということです。500万と日本語で唱えているうちに、500万が500 million に変わってしまったのです。500ミリオンは5億マルク、米ドルで2億5千万ドル相当になります。本店は Are you sure? 確かか?と聞いてきました。当然です。当時250本(1本は100万ドルのことです)ものドルマルクを市場で売るとなると、マーケットに大きなインパクトを与えます。しかし彼は、YES!と答えてしまいました。それからは本店は上へ下への大騒ぎで、市場でドルマルクを売り始めました。しかし、本店チーフディーラーが、東京支店がこんな大きな額を売るはずがない、と途中で考えて、東京支店の責任者、つまり私の上司だった人に連絡して、誤りが発覚しました。その後本店は大慌てで、売っていたドルマルクの買い戻しを行いました。

このジュニアディーラーのミスは、本店に対して行われたので、広く本支店間で知られることとなりました。私の上司は彼をかばったようですが、本店のボスに「こうした深刻なミスを犯すディーラーは、必ずまた大きなミスを犯す。本人のためにもならないので、辞めてもらいなさい」と言われたそうです。結局彼は部署替えになり、でもディーラーになる夢を捨てられずに、他行に移っていったようです。

プロのディーラーは、収益があげられなければクビになりますが、こういった深刻なミスを犯せば、やはりクビになります。特に実績のないうちのミスは、命取りになります。ディーラーとして長く生きていくためには、大きなミスを犯さないことも必須条件となります。

とは言っても、プロのまちがいも日常茶飯事です。特に多いのはコミュニケーション不足によるミスです。顧客から受注するカスタマーディーラーとディーラー間の売りと買いのコミュニケーションミス。買いたい、売りたいをはっきり口頭で伝えるほかに、指を上に向けて買いを示し、下に向けて売りを示したり、動作も使ってまちがいを防ぐのですが、このミスもたまに起こります。これを間違えると市場で売ったり買ったりした逆の売買を、金額を倍にして行わなければなりません。また、海外のディーラーでの電話での金額ミス。特に50(フィフティ)と15(フィフティーン)など、誤解が生じやすい金額については、ハーフオブサーティ(30の半分)などと言い直して確認したりします。また市場で185本売ったはずが、あとで数え直したら173本しか売っておらず、残りの12本を売る時には、すでにレートが大分下がって損をしてしまったということも起こります。逆にレートが上がっていて得することもありますが、マーフィーの法則ではありませんが、大抵の場合損をしている、と記憶していることが多いです。また、これはミスではない場合もありますが、荒れた相場でインターバンクで他行と売った売ってないとか、レートの大台が違うといったことで、揉めることもありました。とにかく、この仕事は人間の思い違いや誤解、それにうっかりといったことで、金銭的な結果が生じてしまうことが多いのです。

私自身も、売ったと思いこんでいた玉が売れずにいて損したとか、オーダーを取り消すのを忘れて、それが約定されて損をしたとかいうのは、数えきれないほどあります。また自分のミスだけでなく、部下のディーラーが顧客の売りオーダーを忘れて、そのため高値圏でロングになってしまったなどということもあります。報告を受けたら、その対処も指示しなければなりません。心掛けたことは、悪いニュースやミスは自己解決しようとせず、すぐに私や他のスタッフに伝えること、ということを徹底させたことです。そのためには、ミスした部下を𠮟りつけるだけで、萎えさせてはいけません。私自身も、手一杯の時は「ポジションがわからない。誰かチェックしてくれ」と叫んで、助けを求めました。こういったリスク管理が重要な職場では、ミスを防ぐための対策を考えると同時に、ミスは起こるものと考えて、そのあとの対応と修正方法を考えていくことが重要だと思います。

さて、銀行を辞めてチームプレーのトレードはなくなって、私もミスしても誰も他にも助けてもらえない個人トレーダーになって、8年になります。加齢と老眼のせいで、近年目に見えてトレードのうっかりミスが増えてきました。どのFX会社でも大抵そうなのですが、PCもスマホも入力画面が私には小さすぎます。ロットでもレートでも、5と6がよく見分けがつかず、注意はしているつもりでも、入力の時によく間違えます。それでも特に最近多いのは、急いで成行で売買したい時に、通貨ペアを間違えることです。

例えば上のレートパネルは、私が使用しているもののひとつなのですが、急いでいたりすると、間違って隣に表示されている通貨ペアをヒットしてしまったり、また一番大きく表示されている部分のレートが似たようなレートだと、やろうとしていたものでない通貨ペアをトレードしてしまったりします。また入力したオーダーを取り消さなければならないのに、それを忘れてしまうこともけっこうよくあります。

しかし、自分だけこんなミスが多いのだろうか、と思って他のトレーダーに聞いてみると、実はみんなけっこうやらかしているようです。やはり、人がやっているのですから、みんなうっかりミスはあるのです。

相場には幸運不運がつきものです。ミスが利益につながることもあります。それは良かったこととして、ミスが損失につながった時は、どんな考え方をすればよいのでしょうか。これは私が現役の銀行ディーラの時からの考え方なのですが、私はミスによって生じた損失を、必要経費と考えています。トレードという仕事を続けていく上では、避けられないコストと考えています。なので、そのミスと損失をそのまま受け入れることが多いです。例えばミスによって、アゲインストのポジションが発覚した場合、トレーダーには、ちょっと我慢してポジションをキープして、もっと良いところで手仕舞いするか、発覚して即手仕舞いするかの選択肢があります。私の場合、そのポジションが発覚時点のレートで、持ちたいポジションである場合を除いては、即手仕舞いをすることにしています。そして今後そのミスを減らすための、考えられる対策があるのであればそれを実行して、あとはくよくよせずに忘れることです。

オーダーの取り消しを忘れないために、私はデスクの前に、「寝る前にポジション一覧をチェック」と書いた紙を貼っています。これをやってから、オーダーの消し忘れはちょっと減った気がします。最後に、私が現役時代にやらかした、一番しょうもないミスをひとつ紹介します。私のデスクの棚の上には縁起物のダルマやら本などが、雑然と並んでいましたが、ある日その中の何かを取り出そうと思ったら、本やらダルマやらがバサバサとデスクの上の落ちてきました。そこに、EBSといって、インターバンクトレード用のキーボード端末が置いてあったのですが、あろうことか、SELLのボタンを落ちてきた物が押してしまい、売りたくもないのにUSDJPYを12本売ったことがあります。すぐに買い戻しましたが、デスクの近辺を整理整頓しておくのも、大事なミス防止方法だと痛感しました。

ということで、トレード機器周辺は整理整頓。ミスはあるものと思って、必要以上に悔やます解消し、すぐに忘れて本当に自分がやりたいトレードに集中しましょう。