【22年4月8日】先月28日に125.10の高値をつけたUSDJPYは、年度末の大きな売り玉買い玉が飛び交う中、乱高下の末一時121.28まで下落しましたが、今月に入り122円台を回復すると、その後は落ち着いて、2度の50時間に及ぶ膠着状態を経て、今朝は一時124円台に乗せました。USDJPYは125円到達前に、意識されていた押し安値の121.18を下抜けすることなく上昇に転じたので、この上昇トレンドはまだ継続中という見方が大勢を占めています。(下図1時間足チャート参照)

ただし、今回の上昇は前回125円を見た時に比べ、かなり買い方も慎重で、前述の通り今朝124円台に乗せる前に、122円台を中心としたもみ合いを59時間、そして今週は123.50から124.00を中心とした狭いレンジでのもみ合いを、52時間繰り返しました。また、AUDJPYやEURJPYなどで、短期的にショートに転じたトレーダーも多いようで、全体的には一時的に急増したJPYのショートはだいぶ掃けたと思います。またIMMのJPYポジションもショートは約10kにとどまっています。

米国の利上げに対して、日本の低金利政策の維持、ということでUSDJPYは買われてきましたが、ここへきて悪い円安を懸念する政治的な圧力も強く、円安を懸念するコメントや日銀の介入の可能性なども話題として取り上げられるようになってきています。ただ、125円近辺の意識されている抵抗線が、黒田ラインと呼ばれているのは、私は大して意味のないことだと思っています。黒田ラインと呼ばれる前から、この125円近辺はいつでも大きなレジスタンスであり、100円は大きなサポートです。日銀の介入と言えば、今年は寅年ですが、24年前の同じ寅年の1998年の相場を思いだします。

USDJPYは1995年に戦後初の80円割れで、日銀は円売り介入に躍起になっていました。G7も為替動向を懸念して、秩序ある反転を望む声明をだして、ようやくUSDJPYは底を打ちましたが、そうこうしているうちに今度は円安が進みすぎてしまい、1997年に日銀はとうとう円買い介入を始めました。この頃のことはよく覚えていて、日銀は朝から執拗にUSDJPYを売りましたが、買いは引かずに昼休みに入るとまたUSDJPYは上昇。後場に押し下げ介入してまたUSDJPYは下げるも、海外でまた上昇ということを繰り返していました。そしてなんとか米国に根回しができたようで、145円に到達した時にはさすがに米国も重い腰を上げ、日米協調の円買い介入を実施しました。

さすがに協調介入は効いて、1998年6月にUSDJPYは下落しましたが、その後再び反転してUSDJPYは147.65をつけています。そしてアジア危機が起こり、USDJPYはようやく下落に転じ、10月にLTCMが破綻してたったの2日でUSDJPYは20円の下落を演じました。政府が円安収束でほっとしたのもつかの間、今度は100円割れ阻止のため。円売り介入を始めます。そしてリーマンショック後にUSDJPYは再び下落、東日本大震災時には協調円売り介入がありましたが、その後も2012年までは円高は収まりませんでした。そしてアベノミクスでようやくUSDJPYは上昇に転じ、2015年には125円台まで達しいわゆる黒田ラインで話題を呼びました。その後は英国のEU離脱などで、100円を割ることもありましたが、昨年初めからはUSDJPYは緩やかに上昇を続けて現在に至っています。

1998年の協調介入で思いだすのが、現役ディーラーだった時に、USDJPYを買おうと思ってNYの本店に電話をした時のことです。協調介入があまり効果がなく、USDJPYが下げ渋っていた頃だと思いますが、NYのディーラーは、私が買おうとするとちょっと待て、今50銭下のレートが売られているというのです。これは日銀のFRBを通した委託介入の玉でした。海外の中央銀行は介入が効果がないとわかると、少なくともしばらくの間は介入を見合わせるのですが、日銀はそうではありませんでした。効果がないのに日銀の委託を受けて、FRBの担当者も仕方なく売っていたようです。確か、BOEも日銀に委託されて、USDJPYを渋々売っていた記憶があります。莫大な資金が動く為替相場において、介入によって相場の流れを変えるということは、とても難しいことなのです。

1997年当時、アメリカのルービン財務長官は「強いドルは国益にかなう」というようなことを、ずっと唱えていました。そして現在も、強いインフレ懸念があるアメリカにとっては、ドル高は国益にかなうことになっています。そうなると、日本がドル安円高を望んでも今後10円20円そこらのUSDJPYの上昇は、米国は気にしない公算が強いと思います。さらに米国は為替操作を嫌う国なので、日本が円買い介入をすることは好ましいとは思わないでしょう。通貨介入は自国通貨だけでなく、相手国通貨にも影響を与えます。しかも円買い介入の場合、保有している外貨であるドルを売らなければならないので、円売り介入よりさらに難しくなります。こうしたことを踏まえて考えると、口先介入やレートチェックなどの牽制はあるとしても、実際の介入は130円台に乗せるまでは難しいのではないでしょうか。介入の期待感があると、市場はUSDJPYのロングになりづらく、125円をしっかり上抜けるとさらに上昇傾向が強くとなると思います。結果的には、介入催促相場と言って、実際の円買い介入が開始されるまで、USDJPYは上昇を続けることになると思います。

まあ介入は置いておいて、上の月間チャートを見るとわかるのですが、青いゾーンの100円から125円近辺の間の値動きというのは、1992年9月から今までの値動きを100とすると、およそ71%にあたります。つまりUSDJPYが、92年以降のそのすべての値動きの中で、100円から125円の間に滞在していることが7割以上ということになります。100円を最後に回復した2013年の12月以来、USDJPYの100-125円の連続滞在日数は3千日以上で、今までで最長の記録となっています。そろそろこれを抜け出して、一段上のレンジに移行してもよい頃ではないのでしょうか。