【22年6月18日】今月に入り、USDJPYは上昇を再開。今週は135.60近辺の高値をつけましたが、その後のFOMCによる0.75%の利上げ、そして昨日の日銀による超低金利政策継続の発表を経て、USDJPY相場は大きく乱高下しました。今日はこのUSDJPYの大相場について書いていこうと思います。

先日、英国のヘッジファンドが日本国債を売っているという新聞記事を見ました。最近の円安とインフレで、日銀が金利を低く誘導するイールドカーブコントロール(YCC)を継続するのは困難で、早晩これを解除することになると考えているというのです。驚いたことには、もしこのトレードがまちがっていて、金利が下落するなら日本国債を買い戻す、ということで、ロスカットのレベルにまで踏み込んでインタビューに答えていました。自分のトレードの手の内を見せること自体が、ちょっと考えられないと思いましたが、こんな日銀に挑戦するような記事が新聞に出るようであれば、今回は意地でも日銀は現状の金融政策を継続するだろうなと思いました。

上のチャートは6月10日の米CPIから、16日午前3時のFOMCぐらいまでの1時間足のチャートです。USDJPYが直近高値の135.60近辺をつけたのは、15日の早朝です。この動きには伏線があって、先週の金曜日、6月10日に米CPIの発表がありましたが、この数字が予想を大幅に上回る前年同月比8.6%という数字でした。これでUSDJPYの上昇機運が一挙に高まって、13日の午後に135.20近辺まで上昇しましたが、その後FOMCのポジション調整が入ったのか、夜にNY時間には133.60近辺まで下落しました。結局は134円台のもみ合いに終始するのですが、問題はその後です。

市場では強いCPIを受けて、今回FRBは0.5%でなく、0.75%の利上げをするのではないか、という観測が浮上してきていましたが、FRBはその観測をWSJ誌にリークすることで、市場に織り込ませたのです。そして135.60近辺の高値をつけにいくことになるのですが、その後の値動きは、やはり0.5%かも知れないという憶測もあったようで、FOMC前には134.50近辺の取引となりました。

上はFOMC後から今朝のNY終了までの15分足チャートになります。FOMCで0.75%の利上げが発表されると、一時134.95をつけましたが、FRB議長の会見も含め、すでに織り込まれていた発表ということで、その後ズルズルと133.50近辺まで下落しました。この133.50近辺は、この時のUSDJPYの上昇トレンドにおいて、4時間足クラスの押し安値となっていた重要なポイントです。そして、その後36時間にわたってマーケットが反応するレートとなりました。

FOMCのNYが引けて、133円台は東京の絶好の買い場となりました。午前11時には134.65まで上昇しましたが、その後134.20付近まで緩みました。やはりFOMC後に135円台をつけられなかったことで、134円台後半は頭が重い印象でしたが、ロンドン勢が参入してくると、再び134.65近辺まで上昇してきました。この134.65も133.50同様に、金曜日まで重要な市場の反応ポイントとなりました。

ロンドンが2度目の134.65をつけ、30分が経過した16時30分でしたが、市場がノーマークだったスイス中銀が、予想外の0.5%の利上げを発表しました。新聞等は後づけで、これがUSDJPYが下落の主原因だったと書いていますが、私は懐疑的です。ただ、このタイミングは、15分足などでトレードしている短期筋が、USDJPYの134.65のダブルトップを根拠として、ショートに入りやすかったということ、また134.20の谷を下抜けしたことで、さらに売りが加速した可能性があります。ピンク色の帯で示しましたが、15分足10本で134.65から132.30近辺まで、235pips下落することになりました。ちなみにこの132.30というレートも重要なポイントで、ここは4時間足の押し安値が133.50近辺になる前の押し安値であり、また今回の上昇が127.00近辺から始まったとすると、高値135.60からのおよそ38.2%戻しにあたっていて、マーケットが反応してもおかしくないレートなのです。

スイス中銀についてですが、現状維持が予想されていた政策金利を0.5%引き上げて、マイナス0.25%としたこと。インフレがここまで切迫しているのだ、という印象をマーケットに与えたことは事実だと思います。しかし、同じマイナス金利仲間の日本も、明日の日銀の会合で利上げするのではないか、と前出の英国のヘッジファンドのことも絡めて、海外勢がみなそう考えた、というストーリーはあまりにも短絡的だと思います。単にUSDJPYがあまりにも大きく下落したので、もっともらしく伝わった話だと私は考えています。とにかくUSDJPYのロングが溜まりすぎていただけだと思っています。例えばクロス円もこの時大きく下落しましたが、16日の日銀発表のはるか前に、USDが全体的に売られ始めたのをきっかけに大きく戻しています。まあそれにしても、とにかく日銀金利発表前夜は、USD全体が売り込まれ、USDJPYはさらに131.50、(大きなサポートは15pips下の131.35で、5月までの高値でした)まで下落し、ようやく底を打ちました。

海外勢がUSDJPYのショートにまわり、ミセスワタナベ(日本の個人投資家)はUSDJPYの買い。結果はミセスワタナベの勝ち。といった記事をどこかで見ました。日銀が金融政策を変更する可能性がある、と考え海外勢がUSDJPYのショートをした、という発想からのようで、ストーリーとしては面白いと思いましたが、ちょっと突飛な推測だと思いました。事実なら、日銀発表前の132円台でUSDJPYのロングだったミセスワタナベは、134円台も135円台もUSDJPYを売っていないことになり、アゲインストに耐えていただけだと思いました。ただ海外勢はショートにいかないまでも、明らかにUSDJPYのロングポジションを減らしていました。彼らも本音は日銀の政策金利発表で買い場を探したかったのではないかと思います。

日銀の発表は11時40分頃ありました。これはプロのディーラーには常識なのですが、日銀会合の結果発表は、特に何もない時はいつもだいたい午前11時40分から50分ぐらいにあります。警戒しなければならないのは、これが12時過ぎてもなかなか発表がない時です。何かしら特別のアナウンスがある場合は、発表が12時40分過ぎになることが多いです。で、11時40分の発表だったので、今回何も変更がないことは、内容を見るまでもなくわかりました。

発表を受けてUSDJPYは133.40近辺から134.65(またもや134.65です)近辺まで上昇しました。さすがにロング勢のやれやれ売りが見られ、頭を重くした印象を受けましたが、問題なのは次の15分足です。赤い矢印をつけておきましたが、134.65近辺から132.35近辺まで、白昼堂々一挙に15分足1本だけで、230pipsUSDJPYを下落させたのです。前日に同じように,まさしく図ったように134.65から132.30まで下げています。前日の下落は15分足10本かけての下落でしたが、たったの18時間ぐらいの間に、200pips以上の往復を2回もしてのけたのです。このような相場は、私の長いトレード経験でもちょっと記憶にありません。

132円台への急落の後、すぐに133円台後半まで戻しましたが、この値動きを見た時には、これは損失者を多くだすタチの悪い相場だと思いました。後で聞いてみると、黒田総裁が辞任とか、日銀が国債の金利上限を緩めるなどのうわさが流れたらしいです。もしかしたらうわさを流しながら売ったのかも知れませんが、狙いは明らかに安くUSDJPYを買いたいためだと思いました。

今年ここまで、世界中がインフレ懸念で金利を上げている時に、日本だけが金融緩和策を継続していること。輸入価格の上昇が続いて貿易赤字が増大していること。などを背景にUSDJPYの上昇が続いてきました。投資家にとっては、こんなわかりやすい図式はないので、USDJPYを長期的に買うポートフォリオを組んでいくと思いますが、もっと短期の投機家もやはりUSDJPYを買うと思います。しかしここへきて思うのは、とりあえずボラティリティがあり、値幅をだしてくれるのであれば、売りでも買いでもどっちでもよいという仕手筋がUSDJPYに参入してきている気がします。

以前から何度となくお話していますが、FXは通貨と通貨、つまりお金同士の交換で、また市場規模が莫大なので、商品市場や株式市場のような価格操作が問題視されることがほとんどありません。市場介入といって、中央銀行自身が価格操作をしようとしても失敗するぐらいの市場なので、問題にする必要がないのです。今FXを見てみると、とにかくUSDJPYの動きがどの通貨ペアより白熱しています。こういった環境下では、とにかく値が動くものにとびついてくる仕手筋がたくさん集まってくるのはまちがいないと思います。

話がそれますが、ただ値を動かすだけを目的にNZDUSDをトレードしていたトレーダーの話を昔聞いたことがあります。ずいぶん前ですが、バンカーストラストという米銀にアンディという有名トレーダーがいました。彼はオプション取引をしていて、簡単に言うと低いボラティリティを買って高く売るというようなトレードをしていました。そこでアジアの早朝にNZDUSDを大玉でバタバタと売ったり買ったりして、ボラを上昇させてFXとオプション両方で利ザヤを稼いでいたのです。しかしそのうちRBNZに、これ以上NZ市場を荒らすなら、NZの銀行ライセンスをはく奪すると警告されてこのトレードをやめたことがありました。一例ですが、こういったこともあるのです。

長くなってまとまりがつかなくなってきました。まとまらないついでに、もうひとつ、先ほどのミセスワタナベについて書いておきます。ミセスワタナベの名称ですが、これは海外のプロのディーラーが日本の個人投資家の総称として誰かがつけたのだと思います。海外勢は、怖いというほどではないのだけれど、ちょっと小癪なトレードをして市場に表れてくる団体や人に、あだ名をつけることがあります。名前としては、ちょっと小馬鹿にしたものが多いです。欧州の早朝に出没するスイス系銀行のディーラーはスイスの小鬼、と昔呼ばれていました。ロンドン勢が自分たちより少し早めに現れて、儲けをさらっていくのをイラっと感じてつけた名前ではないかと思っています。

ミセスワタナベもおそらくそんなニュアンスでつけられています。わけわかんない、WATANABEという舌を噛みそうな、しかも主婦のトレーダーたちにいいように振り回されている自分たち、といった相手を小ばかにしながらも、それにやられている自分自身を揶揄した、自嘲からでた名称だと思います。そういえば昔現役ディーラーだった頃、ロンドンやNYのディーラーとの意見交換でミスター円と言われた榊原さんの名前がでた時には、彼らが思いっきり舌を噛みそうな苦しい発音でSAKKKAKIBBBARAと言っていたのを覚えています。より簡単なミスター円という名称は、本名の発音のしにくさが理由のひとつかも知れません。

マーケットのあだ名は、そのトレーダーや団体に痛い目にあったディーラーたちがつけることが多いと思います。自分でつけるものではないと思います。多くのあだ名で呼ばれてマーケットで目立ってしまった団体は、後で消滅することが多いです。符号やあだ名で呼ばれていた東南アジアの中央銀行、商社、メーカーなどが、昔派手にFXをやっていましたが、かえってマークされてトレードを読まれるようになりました。この世界で長生きするには、目立たず静かにトレードをしているのが一番だと思っています。それから面白がって日本のマスコミがミセスワタナベの名前を使っていますが、海外勢のそういったニュアンスを理解するのであれば、彼らは使うべきではないと思います。本邦個人投資家と言うべきだと思います。日本の多くのわたなべさんたちと主婦たちに失礼だと思います。

直近のUSDJPYの話を書くつもりが、思わぬ方向にそれてしまいました。今回の乱高下や仕手戦化したUSDJPYの一番の原因は、直面しているインフレにも円安にも有効な手立てが差し当たって何もないということです。それによって、世界中の投機家につけこまれ、仕手筋にもお金の匂いを嗅ぎつけられて乱高下を頻繁に引き起こすことになりました。中央銀行によるリークや口先介入に加えて、偽情報やうわさが飛び交ってますます荒れる相場になっていく可能性が高いです。これからはさらに用心してUSDJPYのトレードをする必要があると思います。

 

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