【22年9月28日】9月22日に、政府日銀がUSDJPYの売り介入を実施しました。この日は午後5時に介入が開始されましたが、この介入の14時間前にはFRBが0.75%の利上げを実施し、5時間前には日銀が現行の低金利政策の継続を発表し、USDJPYは上昇を加速させていました。しかし、この介入により146円台への上昇は阻止されたうえに、USDJPYは一時140円台前半まで下落しました。その後のUSDJPYは145円台手前まで上昇したものの、介入の恐怖感で高値を買っていく意欲は冷やされ、150円へ上昇という機運は大きく遠ざかった印象です。

日米金利差の拡大というファンダメンタルズに逆らった、日本政府単独でのドル売り円買いの介入の効果は限定的、と言われています。何度か介入が繰り返されれば、市場もそのうち介入に慣れてきて、初期ほどの反応をしなくなるというのは事実だと思います。けれども、介入は長い目で見ると、入った方向に結局は動いていっていることが多いです。ただ、今回政府日銀が介入で狙ったことは、円相場の円高トレンド転換ではないと思います。円高は円高で、苦労することが多いからです。おそらく急激な円安の阻止だけが念頭にあったと思います。そんなUSDJPYはさておき、クロス円については介入などなくても、その10日ほど前に当面の天井を打っていた可能性があります。今日はそのことについて書きます。

 

上の4つのチャートは左上から時計回りに、USDJPY、EURJPY、AUDJPY、GBPJPYの日足チャートになります。4つのチャートには、赤い矢印と青い矢印が付されていますが、赤い矢印は9月13日、青い矢印は介入のあった9月22日を示しています。赤い矢印の9月13日に何があったかと言うと、米消費者物価の発表がありました。やや強めの数字が出ましたが、USDJPYは141円台から一挙に145円寸前まで上昇しました。しかし、この日のEURUSD、GBPUSD、AUDUSDはUSDJPYの上昇をしのぐ下落をして、EURJPY、GBPJPY、AUDJPYは下落しているのです。結果的にはGLAFXが扱うほとんどすべてのクロス円が、この9月13日あるいは12日の直近の天井をつけています。唯一スイス円だけが、日銀の介入30分前に利上げを発表した9月22日に直近の天井をつけました。

上のチャートは左側が日足USDインデックスで右側がJPYインデックスになります。前出のチャート同様、9月13日と9月22日にそれぞれ赤と青の矢印で印をつけてあります。これを見ると、USDは米CPIをきっかけに調整局面から再び上昇、そして青矢印前日のFOMCで力強く上昇していったことがわかります。一方のJPYですが、9月13日の米CPIでは下落が見られず横ばいでその後じり高、そして介入をきっかけに急騰しています。

USDJPYは今月に入り140円を突破し、一挙に145円台まで上伸しました。しかし、145円という心理的な壁と口先介入もあって、USDJPYが141.50-145.00でもみ合いを続けている間に、他通貨でのUSD上昇が進んで、結果的にクロス円は下落に転じました。では、このクロス円の下落は、単にUSDの上昇スピードの差で偶発的に生じたことなのでしょうか。私は必ずしもそうではないと考えています。例えば先週発生した、英国の金融不安からの株価、債券、為替にトリプル安です。GBPUSDは今週月曜日のアジア市場で一時1.03台まで下落し、GBPJPYもその余波で148円台まで急落しました。BOEはGBP防衛のために緊急利上げを行うのではないかとの憶測も流れていますが、それでGBP安が収まるのかはわかりません。英国はインフレ懸念、それを抑制するための利上げ、しかしリセッション懸念もあり大幅減税を行うという難しい局面を迎えています。日本も英国のことを言えないような状態ですが、最近のGBPの値動きは各国との金利差以外のところで動いています。金利差が為替相場を動かすすべてではないのです。

これと言った材料がない時、為替相場は金利差で動くことは多いです。しかし、今のGBPは金利以外の材料満載です。上のチャートはGBPJPYの週足になりますが、今年4月から今月までの間に、167.50以上のトライが4回もありました。世界中の金利が上がっている中、円だけが低金利維持ということで、世界中から円売りの集中砲火を浴びていた時期です。GBPJPYに限らず、AUDJPYやNZDJPYといったクロス円でも、円売りは進みました。言ってみれば春先から現在まで、世界中がJPYショートの状態をずっと続いているのが今の為替相場です。

米株を中心とする株価の下落も、クロス円の下落に影響していると思います。8月中旬に米株がピークアウトし、9月13日の米CPIで再び下落が加速しています。このタイミングでクロス円が天井を打っていることを考えると、為替相場の材料が金利差から景気動向に移行している可能性も十分あると思います。昔ほど株安のリスクオフでJPYが買われることはないと思いますが、そうにしても過去の経験則からGBPJPY、AUDJPY、NZDJPYといったクロス円か買われることはありません。金利安を背景として円のキャリートレードが巻き戻される可能性があります。そうなると、GBPJPYは150円台から140円台へ下落し、AUDJPYとNZDJPYもそれぞれ90円台85円台半ば、80円台から75円台半ばへと下落を加速する可能性も高いと思います。

 

一方で、ドルストレートですが、株安になるとUSD不足からUSD急騰というパターンは、コロナショックの2020年3月に経験しました。今回は米金利の上昇も伴って、これで株安のUSD不足となると、USDの上昇はかなりきついものになる可能性があります。USDJPYについても、上昇を継続する可能性は高いのですが、株安のリスクオフによる円買いと、円キャリーの巻き戻しによる円買い、それに日銀の再度の円買い介入を考えると、USDJPYの上昇ペースは今までほど速いものにならないかも知れません。下のチャートはUSDJPYの日足ですが、今月上旬に3月からのアップチャネルの上限付近に到達した後、他のドルストレートでUSDが急上昇しているにもかかわらず、USDJPYはもみ合いを続けています。もちろん9月22日の政府日銀の介入は効いていると思いますが、介入がなくても147円近辺では自律的に調整売りが入った可能性は、十分にあったと思います。

この強いUSD高傾向に逆らったり、再度の介入を期待してUSDJPYをショートする気はないのですが、クロス円の下落に伴い、USDJPYも再び調整下落があることを十分に考慮してもよいのではないかと思います。7月上旬に139.40をつけたUSDJPYは、8月のあたまには130.40まで下落しています。再度調整下落によって、146円寸前までの上昇から、140円を割れの急落があったところでまったく不思議なことはないと思います。