中国には「言多必失」という諺があります。文字通り、言葉が多ければ必ず失うものがある、ということを指します。昨日ユーロの急反騰を見て、ドラギECB議長がこの前自分の饒舌に後悔しているではないかと推測されます。

何しろ、昨日ユーロ/ドルは1.05関門手前から何と一気に1.0981まで急騰、ECBが望むユーロ安と逆行する方向に大きく突っ込みました。猫も杓子もユーロを売っていたから、ECBの決定をみて皆が一斉に手仕舞い、ユーロの急騰がもたらしたわけです。

ネコも杓子もユーロを売っていた状況を作り出したのはほかならぬ、ドラギ議長を始め、ECBのメンバー達でした。特にドラギ議長、「何度もやる」、「すべての政策手段を尽くす」といった発言を繰り返し、ECBも事前にマスコミに「大幅利下げ」といったリークをもらしたかと疑われるほど市場がECBの行動、かつ大胆の行動に期待を膨らんでいました。結局、見事に裏切られました。

もっとも、ドラギ・マジックという言葉があったように、ドラギ議長は市場予想範囲を超えた行動を起こし、サプライズ演出に長けています。が、今回は明らかに失敗でした。強いて言うと、今回は予想範囲を超えたばかりか、予想に遜色した内容だったと言えます。あんなに「何でもやる」と言い切ったドラギ議長の言葉を思い出せば、市場関係者らは多少あれ、ドラギ・ショックを受けたに違いがありません。では、ドラギ・ショックを受け、ドル高トレンドが終了したかでしょうか。

結論から申し上げますと、今回のドラギ・ショックを受け、市場関係者らは「中銀不信」に陥り、これからドラギ総裁や他のECB当局者らの言葉を鵜呑みせず、これまでより大幅に割り引いて聞く姿勢が強まるでしょう。従って、ユーロ安、即ちドル高のターゲットが修正される可能性が大きいが、ユーロ安・ドル高トレンド自体の修正、なお時期尚早であると思います。

何しろ、一昨日ドルインデックスがすでに年初来高値更新を果たし、ドル高トレンドがここで終焉したとは認定しにくいです。その上、今回ECBが政策余地を温存した分、いざという時打ち出せる可能性が大きいので、ECBのQE策拡大自体不変である限り、ユーロ安の早期底打ちが望みにくいではないかと思います。もっとも、ユーロ当局にとって、今回の失敗で真似たユーロ高がもっとも懸念材料のひとつだから、近々何等かの形で市場と対話し、市場関係者を慰めることも予測されます。言い換えれば、ECB政策余地ののりしろが大きく残っており、また失敗したからこそ、挽回の意欲が刺激され、ドラギ・マジック次回のパフォーマンスが却って高まるではないかと見る。この辺も正に塞翁が馬、ということになるかと思います。市況は如何に。