【22年3月18日】先週金曜日にUSDJPYは116.35近辺のレジスタンスを上抜け、昨日はほぼ6年ぶりの119円台をつけています。ロシアがウクライナに軍事進攻を開始したのが、2月24日。その後2週間はEURが急落して荒れた相場になった一方で、USDJPYは特異な動きをみせていました。そしてこの動きが116.35を突破を呼び、119円までの急上昇の伏線でした。今日はその解説をしていこうと思います。

USDJPYの動きを追っていくにあたり、とりあえず昨年暮れから現在までのUSDJPYの日足を見ていくことにします。

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USDJPYは今年に入り、116.35付近の高値を2度試し、上抜けに失敗しています。結果的にダブルトップの形状を作っていますが、結論から言えば、ダブルトップの右肩の完成を見ることなく、116.35を突破していきました。この間のいきさつについては、2月18日のブログに詳しく書いてあるので、参照してください。

上のチャートで青いジグザグ矢印で示した線は、私が2月18日時点で予想したトレードのシナリオラインです。細かい上下動を繰り返しながら、再び113.50をトライするものと考えていましたが、24日のロシア軍によるウクライナ侵攻によって、シナリオが崩れました。この日は、速報が流れるとすぐにEURUSDとEURJPYが大きく下落をはじめました。クロス円全般も下落したので、USDJPYもリスクオフの流れを受けて、115.10近辺から114.40近辺まで下落しました。ところが夕方からUSDJPYはじり高になり、夜中0時頃には115.60近辺まで上昇してしまいました。チャートで24日のローソク足を見ると、下ヒゲの長い大きな陽線になっています。

私はロシア軍ウクライナ侵攻の日は、EURUSDとEURJPY,それに個別でUSDJPYがショートでしたが、USDJPYの115.50を上回る回復は想定外だったので、この日を最後に2月のUSDJPYのトレードは見合わせました。そしてこの24日から2週間程度、枠で囲んであるローソク足に見られる通り、USDJPYは下は114.80から上は115.60ぐらいまでのレンジ相場になったのです。

ところでこの2月24日から和平交渉が具体化してくるまでの2週間、EURUSDやEURJPYはどのような値動きだったでしょうか。下のチャートはEURUSDとEURJPYの日足で、枠で囲んでいるところが、ウクライナ侵攻開始からの2週間です。EURUSDもEURJPYもチャートの形状にあまり相違はなく、同じように下落して同じように反発しています。

では同時期の、AUDJPYの動きがどうだったでしょうか。この期間、EURはAUDに対しても大きく売られました。EURAUDの動きについては、3月8日付のブログに詳しく書いてありますので、そちらも参照してください。簡単に言えば、地政学的にリスクとロシアへの経済制裁に伴う原油高を背景にEURが売られ、欧州から遠く離れしかも資源国通貨であるAUDに資金が集まったのです。その結果、下のチャートが示すように、AUDJPYの動きはEURJPYと全く異なるものとなりました。

結果としてUSDJPYは、EURJPYの大きな下落とAUDJPYの上昇に挟まれることになりました。文字通り身動きがとれず、レンジもみ合いの相場となったのだと思います。荒れた相場の中、蚊帳の外に置かれたようなUSDJPYでしたが、戦争でもUSDJPYは下げないという事実は、重要な示唆だったのではないかと思います。これまで経常黒字が世界一の日本のJPYは、リスクオフになると買われるというのが定番でした。海外に出ていた資金が国内に回帰するということで、リーマンショックの時もJPYは買われました。日本自身に大きな災いをもたらした東日本大震災の時でさえ、日本の生保が膨大な保険金支払いで、海外資産を取り崩すのではないか、という懸念からJPY売りが起こるどころか激しいJPY買いになり、G7各国が大災害に見舞われた日本を助けるということで、円売りの協調介入をおこなったほどです。

しかし今回はそうなりませんでした。まず背景にあるのは、各国のインフレ懸念からの利上げ傾向にある中で、日本の金利が依然として低い水準が維持されているということ。資源を持たない日本が原油高などの影響で、経常収支が圧迫され日本のドル需要が大幅に増加すること。それに、ロシア制裁による輸入制限で、資源や物資の大半を輸入に依存する日本のJPYは、そもそもリスクオフで買われるべき通貨なのか、という疑問が今回の戦争で沸き起こってきました。そして以前なら、リスクオフに敏感に反応して売られてきたAUDが、かえって買われていくという現象も起こりました。その後停戦交渉が具体化してくると、リスクオフとリスクオン両方でJPYが売られていくという値動きが、市場で明解になってきたのです。

ということで、3月11日に116.35を上抜いたUSDJPYは、急上昇を開始しました。この上昇を演出するために、あの2週間のもみ合い期間は重要な意味を持っていたと思います。あの短い期間は言ってみれば、USDJPYのストレステストの期間でした。金利、株価、原油、コモディティ、債券市場の乱高下を伴うリスクオンとリスクオフの市場。このもみ合い期間において、市場はUSDJPYは下落ではなく上昇していくという確信を得たのだと思います。

この2週間で得た市場の確信は、USDJPYにしばらくなかった大相場をもたらすことになるかも知れません。