米国株通信 2022/11/24
【今週のレポート】 バフェット氏の大手商社買い増しについて考える
米国の大手機関投資家は四半期ごとにフォーム13Fという書類を証券取引委員会
に提出する義務があり、そこで保有株式の詳細が公開されます。毎回この提出時期に
バフェット氏率いる投資会社・バークシャー・ハサウェイ(BRK)のポートフォリオ
変更点が注目されます。同社は11月14日に9月末時点の報告書を提出し、直ちに
その全容がネット等で多くの記事となって紹介されています。
ただしフォーム13はあくまで米国内の取引所で上場している銘柄に限られ、バー
クシャーが投資する中国の電気自動車大手BYDや日本の大手商社の株式については
記載されていません。
上はバークシャー社の年次報告書から作成した投資有価証券上位銘柄で、米国外の
証券も含まれます。20年末時点では合計で2811億ドルの時価総額価値の株式に
投資しており、圧倒的最大銘柄はアップルの1204億ドルで、一銘柄で全体の4
3%を占めました。
21年末も構成上位の銘柄は変わっていませんが、全体の株価上昇によって時価総
額は3507億ドルに膨れ上がり、特にアップル株はめざましい値上がりによって1
612億ドルとなり、46%を占めていました。アップル株は年が明けた22年初め
に過去最高値をつけ、会社の時価総額は3兆ドルとなっていました。そのうち最大株
主のバークシャーは5.6%を保有します。
また21年のポートフォリオ15位以内に日本の伊藤忠商事、三菱商事、三井物産
が入っています。これは20年8月に初めて日本企業に同社が投資を本格的に開始
し、丸紅と住友商事を含む5大商社に合計6000億円を投じたものが、その後の株
価上昇によってランクインしてきたものです。当時この内容についてレポートを行い
ました。日本企業へ本格投資するのであれば、万年割安で高配当であるメガバンクに
も投資するのではないかと予想もしていましたが、現時点で商社以外は手を出してい
ない模様です。
21年末時点の取得コストも分かっていますので、含み損益も一覧にしました。通
信大手のベライゾンを除きすべて含み益のある状態です。基本的に同社は含み損のあ
る状態(取得初期は除く)を放置しないので、ポートフォリオは常に含み益しかない
形を心掛けます。この点は是非見習いたいものです。勿論株価の下がる年はあるので
すが、長期投資なので含み損状態にならないのです。日本株などは過去30年間、長
期に保有すれば含み損となるので、バフェット氏はそういう国には長い間手を出して
こなかったのだと思います。それが20年8月に日本株投資開始となったのは、時代
の変化に差し掛かっていることを示唆します。
商社の含み益は取得から1年3カ月経過した昨年末で一社あたり+5~6億ドルと
いうところでしたが、インフレの時代に入った今年に大幅値上がりし、残りの多くの
銘柄がアップルをはじめ価値を落としているので、保有比率は上昇しているはずで
す。恐らくバフェット氏は三菱商事と三井物産の違いは分かっていないか、同じと見
ているかのどちらかで、日本の5大商社全体を一つの銘柄と見て買っていると思いま
す。そのため各社への配分はほぼ均等です。そうすると日本商社は21年末時点でコ
カ・コーラに次ぐ第5位の保有割合になっていたと思われます。
投資ポートフォリオ全体の取得コストと含み益の合計は上のように推移していま
す。最新の9月末時点では、新たに多くの金額を新規取得したために取得コストが上
昇し、それらは当然まだ含み益を殆ど生んでいません。また一部を売却してエグジッ
トし、保有継続している銘柄の多くは値下がりしているので、全体の含み益は大きく
減少しています。含み益の減った分は会計上の損失としてバークシャーの決算書に計
上されるので、今年は多額の赤字となっています。しかし保有する限りキャッシュフ
ローベースでは損失発生しません。またアップルのように多額の自社株買いによって
一株あたり価値が上昇することも決算書の損益には正しく計上できません。従ってバ
フェット氏は株価の途中経過に左右されるだけの最終損益など意味のないものと断じ
ていますが、このあたりを分からない投資家は赤字だと聞けば売り、意味のない黒字
でも好材料として買ったりします。
今回バフェット氏のインフレの時代を見据えた商社への投資、或いは日本株への投
資を考えてみたいと思いますが、その前にバフェット流投資の神髄とも言えるアップ
ルへの投資について振り返ることは、この先を占う上でも重要と考えます。なぜなら
同氏の投資や考えは1950年代から首尾一貫しており、ぶれることなく、本質的な
価値に長期投資を行ってきたからです。アップルへの投資も商社への投資も、また次
にくる日本株への投資も同じ考えに基づくものと思うからです。
バークシャーがアップル株に初めて投資したのは16年第1四半期で、わずか11
億ドル、当時のポートフォリオ全体にして0.8%を占める程度の少額投資でした。
当時上位保有5社はトップから順にクラフト・ハインツ、ウェルズファーゴ銀(全て
売却済)、コカ・コーラ、IBM(売却済)、アメリカン・エクスプレスで、これら
で約7割を占めていました。アップルは少し iPhone の販売が不調で業績を落とし、
ウォール街では同社に対する弱気な声も出ていた時期でした。
当時のアップル株は25ドル、PERは12倍、時価総額は5500億ドルでし
た。現在株価150ドル、PER24倍、時価総額2兆3700億ドルです。バ
フェット氏が最初に投じた11億ドルは、その後の大量買い増しと株価上昇によっ
て、現在1265億ドル(一時は1600億ドル超)に膨れ上がっています。
アップル社の営業利益は16年の約600億ドルから21年に1200億ドル弱へ
と2倍に増えてきました。しかし最終的に株主にとって大事な一株あたりの利益額は
2.09ドルから6.15ドルへと3倍にもなったのです。
これがアップルが行ってきた年間10兆円規模の自社株買い(当初は3~4兆円)
による効果です。バフェット氏はアップルの類まれなる利益創出能力と自社株買い
(どちらも世界一)の2つに投資したのです。この組み合わせは株主として最高で
す。なのでポートフォリオの4割を超えるまで突出した銘柄となりました。
さらにPERが当初の12倍から24倍と2倍になったことも見逃せません。つま
り同じだけ稼いでも、その2倍高い株価評価となったのです。相場要因に加え、同社
の成長や多額の自社株買いが市場で高く評価されてきたこと、その一因としてバ
フェット氏が投資しているという効果もあるでしょう。いずれにせよPER12倍と
いう市場評価の低かった時期に買い始めたというのがバフェット氏のバリュー投資の
神髄です。このように買い付けないと常時ポートフォリオを含み益状態にしておくこ
とはできません。金融危機の最中には、下がりに下がったゴールドマンサックス株に
5千億円を投じてもいました。
上のチャートで見ると株価の安かった頃の動きがごく小さくにしか見えないので、
バフェット氏の投資開始は、まだまだ株価の安かった早い時期に行ったもののように
見えます。しかし実際には、2016年というのはかなり遅いと思います。アップル
株は2004年くらいからウォール街で大注目の的、スター銘柄となり続けてきたの
で、バフェット氏は10年以上も遅く入ったことになります。iPhone が発売された
のは2007年で、2016年頃は新鮮味が薄れていた時期で、市場では iPhone に
次ぐ新発明はでないのか、という声もありました。しかしバフェット氏はそのような
新製品に期待したのではありません。
株価の目盛を対数表示に変えてみると分かりますが、バフェット氏の投資はアップ
ル株の長期大幅上昇のかなり後半からです。それでも最初の大きな成長の芽を逃した
ことは問題ではなく、むしろ発明・改革を主導したスティーブ・ジョブズ氏死去(2
011年)のあと、ティム・クック氏によって、アップルが持てる資産を最大限に活
かして儲け、それを株主へ還元する姿勢に投資を決めたのです。同氏にとって株価が
騰がるかどうかは分かるこでなく、大化けを狙って成長の早い段階から目利き力を活
かして株を選ぶということもしません。じっくり長く持てる効率の良い投資対象かど
うかが全てです。
昨年一年間にアップル株の持ち株比率は5.39%から5.55%へと上昇しまし
た。これはごく小さなパーセンテージ分ですが、アップル株の0.1%が年に1億ド
ルもの利益を生み出してくれる(100%、つまり会社全体で年間1000億ドルの
純利益)ことを考えれば、非常に大きな増加と同氏は述べています。しかもバーク
シャーは一株も買い増しておらず、ただアップルが自社株買いをしてくれたことで全
体の株数が減って自動的に持分が増えたのです。
バークシャーの持分だけで昨年56億ドルもの純利益を残しました。そのうちバー
クシャーに配当に回ったのは1割少し(7億ドル強)でしかありませんが、残りのほ
ぼ全ては自社株買いに使われたので、56億ドルの大半がバークシャーに還ってきた
ことになります。
普通、株主は投資先企業の生み出した純利益の全てをもらえるわけでありません、
大抵はその3分の1くらいを配当として得るのみです(残りは内部留保され株主の手
に届かない)。PER24倍の会社であれば一株利益の24倍=株価となります。配
当で投資金額(株価)全部を回収しようと思えば72年かかります(24x3)。
アップル株なら実質的に24年くらいで済むということが同社に投資する理由です。
バフェット氏はこういう理屈をじっくり考えて長期投資する先を決めているので、
アップル株が1月に高値を打って大きく下がっても全く売ることなど考えません。た
だ持っていれば自動的に保有比率が上がり、0.1%上昇することに1億ドルの儲け
が転がり込んでくるのですから、株価を見て売るという考えはないようです。株価な
ど見ずに投資価値があるかだけを考える、このあたりの発想が並みの投資家(材料
ニュースで儲けようと株価に一喜一憂)と大きく異なる点です。
最新の9月末時点のバークシャーのポートフォリオですが、年次報告書と違って一
部の情報しかなく、分かる範囲で保有上位のみ記載し、残りはその他としました。日
本の商社については、個別に同氏が注目している様子はなく、それぞれの発行済株数
に対して均等に投資しているようです。このため5社まとめて日本商社全体として表
示しました。全体の約3%を占めます。
アップルについては株価の下がった今年前半に新たに390万株買い増したにも関
わらず、株価が下がったので保有評価額は昨年末の1616億ドルから1265億ド
ルへと大きく減りました。株価は下がる年には下がるので気にせず、投資価値がある
なら下がったところは買い増しとなります。
あと今年は多くの株式を新規購入しており、直近四半期では台湾の半導体大手ファ
ウンドリー・TSMC株を41億ドルかけて取得したことが話題となりました。
ただ年初からそれを上回るほど大きな投資を行っているのが石油会社です。大手の
シェブロン(CXV)株の追加取得によって同社はポートフォリオ全体の第3位に浮上
する244億ドルとなりました。昨年末時点では45億ドルでしかありませんでし
た。
そして年初から新規に投資し、継続して大きく買い増しを行っているのが米国の準
大手石油会社・オキシデンタル・ペトロリアム(OXY)です。3月の僅か2週間でい
きなり70億ドル超を投じて同社株の14%を取得しました。年初の株安に乗じて
「2週間で何十年も続いている優良な事業の14%を買うことができた」とバフェッ
ト氏は満足げに語りました。
その後もオキシデンタル株を買い進め、9月末時点では第6位となる119億ドル
の投資先となり、20%を超える株主となったため、持分法適用会社として連結決算
に載ってくる予定です。オキシデンタルは今年100億ドル以上の利益を計上すると
みられ、これがバークシャー社自身の収益を第4四半期以降に押し上げていく可能性
あります。
保有上位6社の一年間の株価チャートです。大きく上昇しているのはシェブロン、
オキシデンタルの石油会社だけです。アップルは年初来▲15%安、バンクオブアメ
リカは同▲16%安、コカ・コーラは+6%の上昇、アメックスは▲6%安です。た
だナスダックが▲29%安となっていることを考えると、バリュー株主体のバーク
シャーのポートフォリオは健闘していますが、それでもポートフォリオ全体の規模が
大きいので第2四半期だけで日本円で5兆円を超える赤字を計上し、第3四半期も27億
ドルの赤字でした。
一方、シェブロン株は年初来+58%高、オキシデンタルは+151%もの大幅上
昇です。
どうやら商社株も含め、エネルギー資源への投資がバークシャーの大きなテーマに
なっている模様です。エネルギー株は直近で再度上昇していますが、夏以降は景気後
退懸念が出てきて原油価格とともに下げる場面もみられました。商社株もそうした局
面が夏以降にあり、最近再び上昇を強めています。
この下げた時に売る投資家は、年初から大きく騰がったので利益を確定する短期志
向・株価志向の投資家です。バフェット氏は夏以降の下げたところで米国の石油株と
日本の商社株を買い増しました。
このことを考えると、バフェット氏は資源価格や資源株に長期に投資を続ける意向
で、今年から「時代が変わった」とみてインフレに対する効果的な投資先と考えてい
るのではないかと想像します。あくまで相場の流行に乗って利鞘を稼ぐものでありま
せん。もっと大きな時代の流れを考えて最低数年~10年単位で投資するものと考え
ているのではないでしょうか。
恐らく多くの人は、今の株安やそれを引き起こしているインフレと利上げは一時的
であり、やがてまたインフレが収まる「通常」が戻り、そして利下げが始まって相場
も回復すると考えているでしょう。全ては一時的でサイクルなのだと考え、サイクル
はやがて元に戻るとする考えです。
しかしこの「通常」のサイクルは、過去40年続いた金利低下と物価安の時代の中
で繰り返されたものです。あまりにも長く続いたのでこれがノーマルだと信じ込まれ
ているのかもしれません。
今のインフレは40年ぶりと言われます。利上げペースも79年~81年にかけて
11%から20%にまで利上げされた時を彷彿させます。また不況の予兆とされる1
0年債利回りと2年債利回りの逆イールドの大きさも40年ぶりとなっています。
インフレ、高金利の時代にすっかり変わってしまったのだとすれば、この一年の間
にみられた原油や資源株の上下に合わせた短期的な売り買いでなく、長年に渡り保有
していこうと考えているのかもしれません。40年前のインフレの時代に資源株は最
も機能したからです。
商社株への投資もその一環であるかもしれません。20年8月末にバークシャーは
5大商社の各5%ずつを、計6000億円ほどかけていきなり取得しました。そして
今年11月14日に提出された書類で、それぞれの保有比率は6%台半ばに増えてい
ることが21日判明し、今週から商社株が大きく上昇しています。恐らく新たに計3
000億円ほどを買い増したと思われます。
合計の取得コストを9千億円程度と推定すれば、9月末にこれらの時価合計は1兆
3500億円に株価上昇によって増加しており、今ではさらに増えて1兆6400億
円になっている計算です。
20年8月以降のそれぞれの株価推移です。この間丸紅の141%高を筆頭に伊藤
忠の57%高までばらつきありますが、大幅高となってきました。初めて取得したと
きにバークシャーは最大9.9%にまで持分を増やす考えもあるとのことでした。
アップルの例で分かるようにバフェット氏が本腰を入れて始めた投資は長期に続き
ます。商社への投資は始まったばかりで、まだまだ追加の資金を日本株に投入してい
くとみられます。
その証拠が21日にバークシャーは「グローバル円債」の起債を予定していると判
明したことにあります。円安が一巡したこのタイミングで新たな円資金を調達し、そ
れで買い増しを行うはずです。発行総額や時期は不明ですが、必ずそうするはずと思
います。
その先は発行済株数の各6%台半ばに増えた商社株を予定通り9.9%にまで高め
ることかもしれません。或いは第二の日本株発掘となる可能性も十分あると思いま
す。以前にも書いていたメガバンクは、時代が変わった象徴となる可能性あると見て
います。バブル崩壊から30年以上も金利は下がり続けた日本で、これ以上さがりよ
うのない位置から黒田総裁後(来年4月で任期満了)に上がり出すというシナリオで
す。
バフェット氏は従来銀行好きでした。しかしお気に入りだったウェルズファーゴ銀
株を全て売却し、ゴールドマンやJPモルガンチェースなども売却、今ではバンクオ
ブアメリカが上位に入るのみとなっています。バークシャーは米国一辺倒だった投資
先を、割高感から割安な欧州・日本へ分散しようとしています。ここで日本の金利が
「ターンアラウンド」を迎えるとすれば、銀行株にとって数十年ぶりに「ゲームチェ
ンジ」になりえると思います。ここ2週ほど大人しかった三井住友FG株の勢いが異
常な様子で、高値を追い続けている点も気になるところなのですが、答えは年初に出
てくる次の報告書に載っているかもしれません。
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